№33 ― うちに帰りたい
№33
感想は?と聞かれて「おもしろかった」と、口にしたケンが小型のカメラをジャンに投げわたした。
一緒に行動したはずの班長は無言なままで、手近な椅子を乱暴に引き寄せて腰をおろす。
ルイが片眉をあげ、こりゃあ不機嫌だな、とニコルにささやく。
ウィルがおもしろそうに前髪をいじりながら、小声でザックに伝える。
「耳をすませておきな。班長の口癖がでるよ」
口癖なんかあるんだ、と意外な気持ちになった新人にそれが聞こえた。
「・・・うちにかえりてえ・・・」
・・・・なに?
腕をくみ、上を見上げた男は、たしかにそうこぼした。ものすごく不機嫌そうに。
「ほら、バート、新人が理想の壊れた顔で見てるぞ」
二コルの言葉はほぼ合っていた。むこうの椅子に、ふてくされたティーンエイジャーよろしくだらしのない姿勢で天井をあおぐ男が、自分が専門学生のころからずっと、《寡黙で余計なことは口にしないで即実行》のクールなイメージで想像していた男と同一人物とは思いたくはない。
ザックの様子に片頬をゆるめた班員たちが口にする。
「まあ、最悪な気分のときしか言わないけどね」
「この前偉い人たちの警護のときに思い切り口にしてたよ」
「バートは家が大好きだからな」
「バートが帰るなら、おれも帰る」
最後のケンのひとことに、PCを準備していたジャンが命じる。
「来たばっかだろ。はやく仕事の報告しろ」
おれの報告はそこにある、とケンがカメラを指さし、不機嫌な男は不機嫌な声でただひとこと、気分が悪い、とのたまった。