その夜のザック
その夜、宿直室で一人、ベッドにあぐらをかいたザックは、まばたきもせずに、壁をみつめていた。
頭の中には、ジョニーからきかされた話がぐるぐるとまわっていた。
学校の講義のように長かったジョニーの話が頭の中で何度も再生される。
けっきょくあの長い話の中で確かな真実として残るのは、ドナの手品師の正体も、ケイトの代理人の死の真相も、何もわからないまま、ということと、サラが森でうたっていた気味の悪いうたは、『生贄』のためのうたであるということだった。
「はあー・・・」
出るのはため息というよりも、気持ちを整えるつもりで吐く息であって、自分の気持ちが調節できない。
眠れそうもない。
まだ頭の整理も心の整理もできていなかった。
今日は、家に電話をかけられそうもない。
トトン、と軽いノックでドアがあき、ウィルが顔をだした。
「わ。思った通りひどい顔」
「・・・もとからだよ」
「はいはい。ほら、ジャンがうまいもんおごってくれるってさ」
うしろからジャンの顔がのぞく。
嬉しいが、ゆっくりと首を振った。
にやりとした男は入ってくるとザックの頭を軽くたたいた。
「飯を食いたくないって?上等だ。いい酒を飲ませてやる」
「・・・わるいけど、今日はそういう気分じゃないよ」
「気分じゃなくても、独りで部屋にいるよりいい」
「ケンとレイも来るってさ。あ、バートは来ないから、ミーティングにはならないよ」
ジャンに続けて部屋に入ったウィルが手を差し出してきた。
ちょっと考えてからザックはそれを握る。
簡単に引き上げられて立つと、ふいに肩にまわった長い腕が、ぽんぽんと背中をたたいた。
「あんな話し、だれだってひとりじゃ消化できないよ」
すぐに体が離され、ぼくは車を用意してるよと、いつものようにすました態度でウィルは部屋を出て行った。
ドア前で立ち止まったザックは一応確認した。
「おれ、財布もっていかないけど、一番高い酒たのむから」
「まかせろ」
「みんなにケンカふっかけるかも」
「ケンがいる」
「泣き出すかも」
「レイがいる」
「つぶれて寝るかも」
「いい車がある」
「・・・うん」
ひとりじゃないって、すごいことだ。