秘密のページ
「 ば 」という言葉をもらしたのはザックで、続けて「っかじゃねえの」とどうにか言い切った。
こういう場合必ずたしなめるはずのニコルは、太い腕を組んで下をむいたままだった。
「ちょっとおかしいよ。このおっさん。それってバーノルドの被害者たちが、『生贄』だっていうことになるじゃん」
「ザック。最後まできくんだ」
言いながらもジャンは自分の髪をかきまわす。
「だって、」
「いいかいぼうや、ぼくだってこんなこと考えたくもないさ。だけど、きみもよく考えてごらん。サラはバーノルドの被害者に憧れていた。なぜならそれは、自分がうたをささげている『生贄』であって、『神』に一番近い、存在だ」
「はあ?意味わっかんねえよ」
すでにケンカ腰のザックの肩に、二コルの片手がのばされた。
それをほほえましげにみたジョニーは、ジャンをむいて続ける。
「そしてこの想像には根拠がある」
もったいぶるというよりも、話しにくそうなジョニーの口調に、ジャンが、好きにしてくれというように両手をひろげる。
「じつは翻訳を頼んだ先生のすすめで、譜面をよく調べたら、彼の予想した通りまだあけられていない《秘密のページ》があったんだ。ほら、あの譜面、片はしに糸を通したあとがあったろ?そうしたら、あれは三枚の革でできあがっているものだった」
一枚目の裏にある楽譜を、三枚目のうらに写しかえてあったそれは三枚の革を圧縮するようにつけられていたが、薬品をつかい少しずつ慎重にはがすことができた。
「劣化でくっついたものじではなくてニカワで接着させたんだ。その、くっついていたページの《呪文》のことばは、解読した先生は『詩的でもある』って感じたみたいだけど、――」
それは学者の感覚だから、と弁解するようにザックをみた。
「 ―― 内容は、『供物』の中身に関する言葉、『身となる土』と、『身を通る水』っていう言葉が出てくる。『身となる土』は、肉。そして、『身をとおる水』は、血のことだね。ぼくの恩師は、これは大発見だって興奮しててね。 このうたを捧げられた『神様』は生贄とひきかえにみんなの願いをきく神様じゃないんだよ」
いいかい?と目をむけられた男たちは覚悟をきめたようにうなずいた。