魔女の名簿にのる『名前』
「 あんたら、なにか勘違いしてるけどさ。一度閉じ込められて死んだも同然の精霊と、頭でっかちで人間と交信するぐらいしか『力』のない悪鬼なんて、たいしたことないんだって」
「だって、おまえらはそのたいしたことないやつらの催し物につかわれてるんだろ?」
いくぶん挑発するようなそれには、ため息がかえされた。
「・・・それは、だから・・・、あの『名簿』のせいなんだよ。 ―― 学者が魔女のとこから盗んだ『名簿』は、おれたちみたいに魔女に名前を取り上げられて《人間の姿で暮らしてる悪鬼の名前》がのってるんだよ。 その名簿に載ってる《本当の名前》で呼ばれたら、名前を呼んだ相手に従わなきゃ、《体がなくなる》っていう魔女の呪いつきの封印だ」
まったく驚いたぜ、と首をふりケンの顔をのぞく。
「街中でいきなり、あの学者に《本当の名前》で呼ばれたときは。 ずっと人間になりきって暮らしてたんだぜ。 ―― 本当の名前で呼ばれたとたん悪鬼としての力も戻るんだが、相手が格下の鬼族ってのが納得いかなかったけどな。・・・まあ、話をきいてみたら、ほかにもだいぶ声をかけた後で、これから《おもしろいこと》がはじまるってわかったし、千数百年ぶりに人間がどういう反応するかも見たかったしな。 ―― それに、ハロルドの《反乱》もなかなか見ものだったぜ。ジェニを自分の『花嫁』にしようって決めて、子鬼のオモチャの、木彫りの人形を渡したり」
ありゃ、おれたち悪鬼の目の代わりをするんだ、とぐるりと首をまわし、後ろの男たちをみた。
「 人間たちは昔からあれに憎いやつの体の一部を入れて、そいつを殺してくれって、頼みにきたぜ。 人形を燃やして青い炎があがれば、おれたちはその憎い相手に『なにか』が起こるようにイタズラをしかけんのさ。ほら、ジェニのお友達の車なんて、ブレーキがきかなくなっただろう?そういうやつさ。 ―― で、ハロルドはその人形とおれたち悪鬼を使って、《道化》みたいにジェニの頭ん中に話しかけ続けて、ものにしようとしたわけ。人間の《神官》が、本気でジェニを『花嫁』にする気だってなみんなで笑ったぜ。 ―― おっとその若者をおさえておいてくれよ。まったく短気だな」
ザックはまたニコルに肩をつかまれている。