ザック、列を離れるな
「 ―― だからさ、この地下空間は元々おれたち悪鬼のものだったのに、ある日いきなりゴードンとかいう人間にあばかれたんだ。 で、そのゴードンがおれたちの住処をあばくように仕組んでいったのが、魔女の名簿を盗んだ《学者くずれの悪鬼》だったってわけ。 ・・・やつは自分のことを《道化》なんていってこの『催し物』におれたち鬼族と人間を巻き込んで自分がやりたいようにしようと思ったんだろうけど・・・、実際、半分も実現してないだろうよ。 相手を見誤ったし、まさか、魔女が自分を追いかけてくるとも思ってないだろうし」
そこで、ルイからの視線に気づき咳ばらいをした。
「 えっと、《人間的な感覚》でだっけ? ―― 学者くずれの《道化》はまず、魔女にむかし閉じ込められた『精霊』を解き放つことを考え付いた。いや逆か、その『精霊』の存在を知ったから、魔女の『名簿』を盗んでやろうと思いついたんだろうなあ」
扉をくぐる。
ザックはそのばかでかい扉のつくりをみようと、じっくりとながめまわしながら通り抜けた。
「 ―― 最初は、ただ魔女をだしぬいて、その閉じ込められた《精霊》をこの世に出して、魔女を笑ってやろうってことだったと思うぜ。 それが結局その精霊を出してやったら、《道化》は《精霊》のいうことをきいてやらなきゃいけなくなったってわけだよ。 魔女に閉じ込められたなんて、間抜けな精霊だと考えてたんだろうけど、思いどおりにならなかったってわけだ」
ザックの後ろのニコルとマイクが通りぬけると、巨大な扉が突然なくなった。
思わず戻って確認しようとしたザックのえりくびを二コルが捕まえ、列を離れないように注意する。