弾はとっておく
「 おいっ!ふつうは『扉を開けなきゃ撃つ』って言うだろお!? 」
ようやくクロードが自分のおちいる事態に気づき、頭を振ってどうにか銃口を遠ざけようともがく。
それらをながめていたジャンが、微笑みながら教えてやった。
「『ふつう』をうちの班長に期待しても無駄だって。 彼、言ってたろ?『取引』しないって。 だから、ただおまえが撃たれるだけ。 扉は関係ない。 ―― でもなあ、・・・もしあの扉が今すぐに開いたら、撃つのを我慢するかもなあ」
ジャンの言葉にすがるように悪鬼は叫んだ。
「あける!すぐにあける!」
言葉と同時に扉が音もなくひらいた。
「よしよし、これでおまえを撃っても『弾の無駄遣い』ってことになった。 な、バート、そんなわけで、ここで貴重な弾をつかうことないだろ。取っておけよ」
ジャンの言葉に納得したのか、バートは銃をしまい、身をおこす。
「あいつをもっと遠くにやってくれ! ちくしょお!体が腐りそうだ!」
声をふるわせて訴えるクロードの首が元の角度になって額が力尽きたように地面についたとき、今度はその体をおさえこんでいたケンが、背中にねじりあげた腕ごとクロードの体をひきあげた。
あがった悲鳴を無視して、いつものにやけた顔を近づける。
「おまえ、この事件のこと、すごく詳しいんだろ?」
半分だけ人間の顔をした悪鬼の肩に腕をまわし親しげにおさえこむと、ひらいた扉のほうへ歩きだし、ルイをふりかえり、質問は?と聞く。
「そうだねぇ、 質問形式にすると時間がかかる。《人間的な感覚》でここまでのことを順序良く、全部説明してもらおうかな」
体全部が痛いと文句を言う『悪鬼』は、顔をしかめ、扉の手前でなぜか真上をみあげると、「まあ、もう『子鬼』どもも逃げちまったし、いいか」と息をついて話しはじめた。