遺跡ではなく住居
「そう。今回のわたしの『役』だよ。 ジェイ・クロードっていうんだ。会計士をしてて、ジェニファーの家の隣に住んでる。 ジェニを『見る』ことは楽しかったから《ご近所のクロード役》を引き受けたけれど、こんなふうに面倒な後処理をおしつけられるのはごめんだね。 他の《人間役》のみんなもやめたみたいだし、『眼』の役目をしてた『子鬼』たちも、なんだかひどくおびえて逃げまわってるらしいし、それにこの炎の勢い見てくれよ。 こんなちょっとしか立たないなんて、笑えるだろう? これってもう、―― 《あいつ》の力がつきはじめてるんだよ」
「なにの力だって? いや、それより、ジェニファーはどこだよ?」
男はおかしそうに笑って指を鳴らした。
ザックの耳の奥がきゅっと痛くなり、視界がぶれる。
白いものが眼の前を左右に揺れ動いたようだと思ったら、先ほどすぐ近くにあった柱がひどく遠ざかっている。
「・・・なん・・だよ・・・」
見回すと、等間隔で奥まで並列で続いていた柱が動いてあたりを囲むように配列しなおされ、ザックはひろい円状の空間に立っていた。
あんぐりと口を開けたままの若者にクロードは説明した。
「 まあね。 ここはわたしら悪鬼の住処だから好きに配置換えできるのさ。『遺跡』だって?冗談じゃない。現役ばりばりの『住居』なんだ。 ・・・なのに、《あいつ》が人間をつかってあの《石版》を手に入れてしまったから、あちこち勝手に閉ざされて、まったくいい迷惑だ」
「えっと・・・何の話しを 」
いいかけたとき、銃声がひびきクロードの足元で砂煙があがった。