『役』をおりる
「 《綿あめのような女》が、仲間を選ぶ。 罪を裁かれるか逃げるかを選ぶ。 城を見つけ、教会で仲間を密告するかどうかを選ぶ。 信じるのは、神か家族かを選ぶ。 そうして彼女は、最後に、神を選んだ 」
「 ―― 違う。ジェニファーだって、ほかの、女性たちとおなじように、好きで選んだわけじゃない」
ザックの断言に、喉の奥で男はわらった。
「なるほど。ではきみは、こんなふうに、――― 」
『 直に頭の中に話しかけられて、断りようがなかった、と思いたいわけだね? 』
「っぎゃ!なにしやがんだ!くっそ」
女たちの立体映像をみせられたとき、サラの歌が気色の悪い声と重なり、直に頭に響いてきたのと同じ仕掛けなのだろうと思うが、その仕組みはザックにはまるで見当もつかない。
先ほどと同じように一気に肌があわだった。
「これは、わたしたちの《意識の交流方法》が、きみたちに合わないだけだ」
まるで学校の教官のような口調で言った男が、なにげないしぐさでフードを取り払った。
でてきたのは教官というよりも、銀行員といった雰囲気の男だった。
ザックの父親よりすこし若いくらいだろうその男は、きれいに撫でつけられた濃い茶色の髪を気にするようにさわり、改めてザックを眺めると大きく息をつく。
「ふうむ・・・ずいぶんと若そうだ。 ―― きみはマデリンのことをもちろん知っているのだろう? あの女は頭の中の声から逃れるための方法を考え実行し、一時的であるけれど『光』を持つ男と一緒になり、声から逃れた。 ジェニファーにそんな行動は無理だったと思うのかな?まあ、たしかに彼女は少々文句の多い若者だったけれどね」
「だまれ!おまえ、ジェニファーがどこにいるか知ってるのか?」
一歩踏み出したザックに男は半歩身を引いた。
「なんとも、きみ、若いのに『守り』がかたいね。まとってるのは《魔女の煙》だし、その強い《光》は何だ? あ~あ。・・・おっかしいなあ。さっきまでは、楽しかったのになあ。まあいいや。どうやらもう『おわり』ってことが決まったみたいだし、わたしもここで『役』をおりるかな」
「『やく』?」