マント男
さきほど触った、腰のホルスターには、ありがたいことに銃がそのまま収まっていた。
一番近くの柱に身をよせ、弾もそのままかどうかを確認する。
安堵の息をついたとき、柱と柱の間の地面に、コンロのガスをつけたように、いきなり青白い炎がたちはじめる。
火はみるまに白い地面を走り、まるでなにかを取り囲むように円を描いた。
ザックがあわてて銃を構えたときには、炎に囲まれた中に、劇場にいた、あの黒いマントの男が立っていた。
「 ・・・うそだ、ノース卿はもう死んで」
ザックの言葉にかぶせるように、相手はあの芝居がかった声を響かせる。
『 さてさて、―― ここまではるばると、ころがりついた子ネズミは、
どうやらあの、『選ぶ女』を迎えに来た様子 』
芝居がかった言葉の発し方もこの声も、劇場の中に出てきたあのマントの男だ。
ということは・・・。
あそこにいた『マント男』は目の前のこいつであって、ノース卿ではなかったってことか?
「 あんたノース卿じゃないんだな? いったい誰だ?教会のやつか?」
銃が震えないようにしっかりと構え、相手をにらむ。
マントの男がゆっくりと両手を広げると、青い炎が左右に割れた。
「もう、 ―― これぐらいの《手品》じゃ驚かねえぞ」
自分を励ますように言うと、フードの中の口もとが、おもしろがるようにゆるむのが見えた。
「あなたは、どの、『場面』をお望みですか?」
「え?」
その質問に驚いたのではなく、芝居がかった言い回しもなく、まったく普通に発せられた声のほうに驚いた。