№55 ― 新米
№55
ようこそ月のうちがわへ
そんな声を聞いたような気がする。
「っ!?」
ザックが飛び起きたとき、自分を囲んでいた小さな《なにか》が一斉に逃げてゆくのを感じた。
あたりは暗かった。
ここまでのことが夢でないとしたら、今のは、あの魔女が『子鬼』と呼んだ小さな生き物かもしれないと思い、どれほど視界がきくのか確認しようと自分の手をかざす。
闇に慣れた眼は、自分の手と、すぐそばにある巨大な白い円柱の柱をみとめ、等間隔で並ぶその柱が、ずっとむこうまで続いていくのを確認した。
さっきまでの部屋じゃない。
このうすぼんやりとしたオレンジ色の光源をさがそうと上をみあげれば、白く太い柱の上部にあるえぐったようなくぼみで、とけてつながった蝋燭が、いびつな影をゆらめかせている。
だが、その明かりではとてもこの空間の天井までは届かないのだろう。みあげた柱の先は闇にのまれていた。
制服の肩にさしこんだはずのライトはなく、息をとめ、辺りをうかがうが、ほかの人間の気配がない。
―― ちくしょう。おれはやっぱり新米だ
おのれの行動が失敗だったのを悔いるが、今さらだ。