意味がとどく
「そうだよ。きみもあれをうたうたびに、そのすべてを神に捧げてたことになるね。あれも、いわゆる『呪文』みたいなものでね。ここですべてを捧げるようにあなたを敬いたたえる言葉をとなえるので、わたしたちを助けてくださいっていうことなんだ。―― で、こっちの羊革にもどって、この古い《呪文》の中身は、ここに捧げる『もの』がどんなに価値が高く、どれほど神様を愛しているかを伝えている」
「『もの』って?教会のあの祭壇に置いとく穀物とか?」
頭を傾けるザックに待てというように指をたてた男は続ける。
「そう。ここが、サラの歌と、聖歌との決定的な違いだ。それはあまりに言葉通りで・・・、これからゆっくり話すよ。―― それにしても、あの『うた』をもうきかなくても済むようになって、捜査員たちはほっとしてる。正体不明の言語をつきとめるため、何度も聴くうち、みんな、気分が重くなったり具合が悪くなったりで、そのうち誰かが、《呪いのうた》だなんて科学者にあるまじき拒否反応を示しだしちゃってねえ・・・」うちの捜査員のほとんどが、一度は倒れたね、と苦笑して肩をすくめてみせる。
ザックは小声でルイに、ジェニファーの『呪い』の話しをしたのか、とたずねて笑顔をかえされ、ちょっと同情しながら、研究熱心そうな男の話に引き続き耳をかたむける。
「まあきっと」とジョニーは両手をこすり合わせた。
「―― 気分が悪くなるのは、何か人間の深いところにその意味が届くからなんだろうねえ。『古代語』なんていう、文明が滅びてもその『言葉』だけが何千年も残ったのは、人間のすがる宗教的儀式にそれが残ったからなんだ。こんな離れた大陸に同じ言葉がたどり着いたのはそういう人間の信仰心があったからだよ。人間が大陸を移動すれば、その信仰だっていっしょに移動する」
「ナタリのところの特殊な信仰もそうなのかもね」
たしかに、とウィルの言葉にうなずく。