№54 ― これは現実
ジャスティン、あとちょっと。。。
№54
「ぎゃあっ!」
声をあげたのは、腕をつかまれたジャスティンだった。
「 ―― 落ち着け。ゆっくり腕をおろすんだ」
右後ろから、マイクの声がして、身体からなにかが抜けるように意識がはっきりとし、筋肉のこわばりがとれる。
指にからみつくようだった銃をはずされるときには、右手の感覚は戻っていた。
「・・・おれ、・・・・だれか撃ったか?」
「撃ちたかったわけ?」
確認の言葉にウィルの不機嫌な声がかえる。
さっき『おのぞみなら』といったのと同じ声だった。
警備官たちが肩につけたライトが、あたりを照らす、
「大丈夫か?この部屋に着いたとたん、お前が立ってこっちに銃口をむけてるから、どうしたのかと思ったぞ。しかも、《自分を撃て》とかわめきだすから、ウィルに足元を狙って撃ちこんでもらった」
マイクがジャスティンの目をのぞきこみ、口をあけろと命令する。
指示にしたがい、からだのあちこちを確認されながらジャスティンは、ようやくこれは現実なのだと安心できた。
「・・・右手が、ゆうこときかなかった・・・」
子どものような言葉しかでてこなかった。
信じてもらえる自信はなかったのに、こちらの顔をみた相棒は、そうか、と同情するようにうなずいた。
みまわせば、さっきとまったく同じ部屋にいる。
乾いた石積みの壁。
地面に埋まり、なにものせていない石の板。
それをのぞきこむように囲む警備官たち。
倒れた人のかたちをしたものはどこにもない。