おれを撃て!
みたこともないほど怒った相棒の顔が、赤をとおりこして黒くなってゆく。
「 『 お前が煙草を吸ってあの魔女をよんだのか?』 」
あがった顔はみたこともない男の顔だった。
「おまえ、だ、誰だ!!」
身を引こうとしたら、腕をつかまれる。
「 『おまえのせいでハロルドは死んだ』 」
「おれは撃ってなんかいない!」
「 『おまえもつねに妬みを抱えている』 」
「ね、ねたみ?」
「 『おまえもこの月の裏側にふさわしい男だ』 」
「なに言って」
「 『銃をとれ』 」
「銃なんてさっきジャンが、――― 」
いきなり、自分の右手にそれがにぎられていた。
「 『さあ、おまえが望むのは、どの男の死だ?』 」
銃をつかんだ手をもちあげる気なんてまったくないのに、腕があがってゆく。
「う、うそだ・・」
ゆっくりともちあがった手ににぎられた銃が、むこうに立ち並んでいる警備官たちにむけられる。
「ちがう!望んでなんかない!」
銃口がジャンのところでとまる。
むこうが手にしたライトがこちらの手元を照らす。
「ちがう!やめてくれ!ジャン、おれを撃て!」
悪夢のように止めようのないその中で、銃をかまえる自分の右腕にノース卿につかまれた痕が、赤黒く浮き上がる。
そこから先の手の感覚は、ジャスティンにはない。
ライトがジャスティンの顔に当てられている。
「たのむ!このままじゃおれは、お前を撃っちまう!」
安全装置ははずされ、指は引き金にかかっている。
きっと、何の感覚もないままに、弾はジャンに当たるだろう。
「おのぞみなら」
だれかの声のあとに、大きな銃声が二回続いた。