石の上に
大鐘を叩くための大きな振り子には、なぜか下向きに刃がついている。
いや、ただしくはそれは『振り子』ではなく、どうみても大きな『斧の刃』だ。
口をとじられない男の脳裏に、むかし絵本か何かでみせられた、魔女の持つ《大鎌》が浮かんだ。
「う、・・うそだ、うそだ、ありゃ子どもを怖がらせるためのおとぎ話だろ?実際になんてありえるわきゃない!」
自分にいいきかせるが、目はその信じられない現実からそらせられない。
足も現実ではありえない力によって動かせずにいる。
「は、はやくどけ!ジェニファーを抱き起すんだ!」
叫んで目を移せば、石の上に横たわろうとするノース卿がいた。
「 なにやってんだっ!? あんた頭がおかしいぞ!!そこに、あの鐘が落ちてくるんだ! 中に振り子の刃物があるのが見えないのか? そこにいたら、―― 」
―― そこにいたら、あの刃物ですっぱりと、
「 っっくっそ!!ふざけるなっ!ジェニファーは生贄なんかじゃねえんだ! あんただって同じようにあの振り子でまっぷたつだ! 」
この間にも鐘はどんどんとせまってくる。
ぬいだマント地面に叩きつけどうにか動こうとするが、やはり上半身しか動かない。
振り子はどういうわけか一定の間をおいて鐘の音をならすことになっているらしい。
先ほどの余韻がのこる間にも振り子はゆれているのに、鐘は鳴らない。
この近さであの鐘が鳴ったら言葉も聞こえないだろう。
ジャスティンは今のうちにと、まくしたてた。
「 どういう理由にしろその子の命を奪う権利はあんたにはない! あんたがどんな宗教をもってどんな王様に憧れてるなんてこのさいどうでもいいんだよ、とにかく早くそこをどくんだ! なに、のんきにそんなとこで寝転がってるんだよ?あんた彼女と結婚したいんだろ?結婚ってのは寝転がって一緒に死ぬのを待つことじゃないだろ? はやく! 早くどけ!! 」