振り子
ひとしきり笑い、革袋をさかさまにしてすべての灰をかぶった男はようやくジャスティンの存在を思い出したように顔をむけた。
「これで、わたくしも王と並ぶのだ」
「何とだって?」
さっきから『王』などという単語が聞こえている気がするが、この国はすでに王制ではない。
教えてやろうとしたところで、またしても鐘が鳴り響き、その音の大きさと皮膚を伝う振動に驚きみあげれば、鐘はすぐそこまで迫ってきていた。
―― このままじゃ!
「あの鐘が落ちてくる!はやくジェニファーと一緒にそこをどくんだ!」
目測でいけば、あの一番大きな鐘は彼女が横たえられた石の板をすべて覆う。
中が空洞の鐘に潰されることはないと思うが・・・。
―― ・・・ちょっと、まてよ・・・
みあげたまま目をこらすと、真っ黒だった鐘の内部のつくりがみえてきた。
普通、教会の鐘と言えばそれ自体が振り子のようにゆれて中の金棒との接触で音がするものだと思っていたのだが、この大きな鐘はさきほどから少しも揺れていなかった。
まわりにつけられた六つの小さな鐘は、ずっと揺れ続け、おかしな音を出し続けているのに。
―― 鐘の・・・中に・・?
動かない大鐘の中になにかが揺れているのがみえた。
途端に大音響で大鐘が鳴り、ジャスティンは思わず耳をふさぐ。
大鐘の中にある棒がおおきくゆれて内側にあたり、この大きな音を響かせているのだ。
ぼんやりとした蝋燭の明かりでさえ、その鐘は美しい甲殻類の昆虫のような、つややかな光をはなっていた。
暗くにぶい真鍮のような、銅のような色の鐘が、中に吊り下げた大きな振り子によって音をだす。
振り子によって ―――
振り子 が、 にぶくひかっている。
「・・・冗談だろ」
見上げたままのジャスティンの口から言葉と一緒に苦しい息がもれた。