呪文と巫女と魔女と
「サラのうたっていたうたの言葉。ぼくらは考えられる聖歌すべてとくらべていったけど、どことも似ているようでまったく違っていてね。ぼくたちだけじゃお手上げだって気づいたから、しかたなく、場外の力を借りることにした」
机にこしかけながら、ぼくが若いころに留学した大学で、お世話になった人でね、と手にした紙を机にゆっくりならべる。
「ぼくの先輩、―― つまりかなりのご年配の学者先生だけど、いまでも現役でね。譜面とうたの両方を送ってお願いしてみたら、すぐに興奮した返事がきたよ」
もったいぶったジョニーが並べ終えたように机の紙をたたく。
「これは、言い伝えにある、『呪文』だった」
「はあ?」
おかしな声をだしたザックに、呪文だよ、とジョニーは繰り返す。
「音をつけて『うた』というかたちにした『呪文』なんだよ。こうなると、あの森の《魔女伝説》って、本当なのかもねえ。たしか、ノース卿の一族は、あの森での儀式をつかさどってたって話があるよねえ?」
ウィルを見るが、金髪は前髪をはらってみせただけだった。
ジョニーはかまわずに続ける。
「バーノルドの森で魔女たちが呪文をとなえる。きいた人がなぜ、『呪文』だって思うのか?それはね、普通の人がきいても、その言葉を《理解》できないからさ。理解できないものは、恐怖の対象へと変わりやすい。秘密の匂いがするのも、それに拍車をかける」
「わかった。ジョニーのありがたい『講義』はまた今度ってことで。―― で?簡単にわかりやすくまとめると?」
なめらかになりだした口をいきなりジャンに止められ、しばし不服そうにループタイをいじっていた男が、気を取り直し、まとめた。
「さっき言った『言い伝え』っていうのは、この大陸に最初に移住した民族は、儀式のときには神様と会話するのに『呪文』をつかってたっていうものだ。『呪文』はあまりにも大事なため、書いて残すことを禁じられていて、代々巫女になった者にだけ、口伝されていった。その巫女が儀式のときに音にのせてつかう。 ・・・ぼくはね、バーノルドの魔女は、この巫女の女性から派生したものなんだと思うよ。ああ、わかったジャン、説明をつづけよう。 ―― 」
腕をくんだ男が短く「まとめて」とめいじた。
「はいはい。 ―― つまり、サラのうたの歌詞は、『古代語』よりも古くて、現在どこにもない言葉で、海の向こう側の国に、はじめて文明が栄えたころに使われていた言葉だった。でも、中央劇場の遺跡発掘のときにそういう言葉が石に刻まれて発見されたって話もあったよねえ」そういえばあれどこ行ったんだろ、と首をかしげるジョニーにジャンが指先で催促する。
「あー、とにかくあの『歌詞』を訳してもらったら、内容が、《神様にすべてを捧げる》っていう、いまある聖堂教の、聖歌の原型になるものだってのがわかったよ」
ぱん、と手を合わせたジョニーに、聖歌ってそういう歌だったんだ、とザックが複雑な表情をうかべる。