歓喜
「ケイト?―― ああ、約束されたはじめの女だ。まだわたくしが目覚めるまえの」
「『目覚める』だ?いいや、あんたまだ目覚めてなんかねえだろ? はっきり目エさましてこんなとこから早く出るんだ。いままでのことを正直にはなして、まだみつかっていないエミリーを出すんだ。そうすれば、 ―― すこしは罪状が軽くなる」
いまだに足も動かないのに、『警察官』らしい言葉で犯人を『説得』しようとこころみるも、青い炎に照らされた相手は笑みを深めただけだった。
「そうか、あなた方には・・・まったくなにもみえていない」
「見えてる。あんたがバーノルドの犯人で、最初のときから怪しかったにも関わらず捜査ができなかったのは、お友達のシェパードに『うちに入るな』って伝えたからだ。 だけどそのお友達ももう捕まってる。あんたをかばう者はいないってことだ。 いいかげんはやく、 っくっそ、 うるせえぞ!!」
なりやまない鐘の音にいらだち上をむいたジャスティンは固まった。
さっきまで何も見えなかった暗闇の中に、
ぼんやりと『鐘』が姿を現しはじめた。
リリン ゴオオオオン
リリン ゴオオオオン
耳障りな音はその大きさを増し、ゆっくりだが確実な速度で降りてくる。
ジャスティンに見えたのは、大きな鐘が小さな鐘を周り従えたような造りだった。
真ん中の大鐘が体の底に響くようなゴオオンという音をだし、まわりの小さな鐘がそこに合わない不快な音を出し続けている。
ああ、とノース卿のうめくような声が聞こえ、はじけたように笑い出した。
「これで、これで、わたくしも王と同じように月へゆけるのだ!」
叫んだ男はさきほど出した革袋に手をつっこむと、引き抜いた手を上にあげ頭からその灰を自分にまぶしはじめた。
あっけにとられるジャスティンの目の前で、男はあっというまに灰にまみれ、黒いマントは白く汚れた。
「あんた・・なにやって・・」
この場面にきての滑稽な状態に、笑いたいが笑えない。
灰まみれのノース卿の顔は歓喜に満ち目はぎらついて血走り、笑い続ける口だけが赤くてあまりにも気味が悪く、なにかに『取りつかれる』というのはこういう表情なのだと思わせる。