《炎》をよびだす
「落ち着いた方がいい。この炎は物を燃やすためのものではないから彼女が燃える心配はない」
「なに言ってんだ!どう見たって火だろ?そんなのにかこまれたら火傷して―― 」
ジャスティンが言葉をのんだのは、ノース卿がその炎に自分のマントの袖口をつけたまま、素手をそれにかざしてみせたからだった。
熱くもないのだよ、と男は炎をつかむ真似をしてみせた。マントに炎は移っていない。
「これは、『聖い炎』だ」
「・・・なにかの、手品なんだろ?ジェニファーが・・・家でやるとうまくいかないって愚痴ってたぜ」
「うまくできないのは、きっと、炎を必要とする場面ではないからだろう。この『炎』は、必要とするときでなければ出てこない」
まじめな答えにどうにかふざけたことを言い返したいジャスティンは、つい最近見たローランドの土気色の顔を思いだしながらゆっくりと言葉をさがす。
「ローランドも、・・・あいつも自分のパーティーで燃やしてたのは、ふつうの色じゃない炎だったっていうけど、色をだす化学物質の粉をふんだんに使ってたらしいぜ。なるほどな。 ほんとうは、『それ』を、出したかったわけだ。―― あいつもあの譜面じゃなくて、その『灰』を持ち出せばよかったのにな」
「この『灰』をあの男がつかったとしても、『聖い炎』はよびだせない。 さっきも言ったが、必要とする場面でなければでてこない」
「なんで?あいつのパーティーだって、あんたの『儀式』みたいなもんだったんだろ?」
「いや、あの男にそんなことはできない」