《灰》をまく
人が集まってから始められるものだと思っていたジャスティンはあせった。
「おい!なにが『花嫁』だよ。 あんたやっぱりジェニファーを生贄にして儀式をやろうとしてるんだな?なにが『生贄などそんざいしない』だよ。彼女を六人目の犠牲者にするつもりか!?」
どなるこちらの声などまったく耳に入らないように低くなにかをとなえる男は、灰をまいたジェニファーの周りをゆっくりと歩きはじめた。
数歩あるいては立ちどまり耳に残るアクセントで何かの言葉を発し、また進むのをくりかえす。
言葉の意味も動きの意味もまったく理解できないのに、ジャスティンの寒気はおさまらなかった。
「やめろ! いいか、こんなことしていったい何になる? ―― あんたは城を持っていて貴族で生活に何も困ってないだろう?黒い神と契約してどうしようっていうんだ?」
悪神と契約して手にいれたいものなどあるのだろうか。ジャスティンにはまるきり理解できない。
「ジェニファーだって、好きでこんなとこに来たんじゃない。あんたのしかけた手品のせいで『声が聞こえる』って思い込んで、こんなとこに一人でくるはめになったんだ」
「声が聞こえていたのなら彼女はここに来るべき者だった」
とつぜん理解できる言葉を返した相手がさっと石の板から身をはなす。
すると、音もなくちろちろと《それ》がゆれだした。
「・・な・・んだ?いったい、あんた何したんだ?」
ジェニファーを囲むようにまかれた灰が、みたこともない青い色の炎をたちあげている。
あわてて近寄ろうとしたジャスティンがバランスをくずして地面に手をついた。
――― 足が、うごかない!?
間近にみた自分の足に変化はない。
なのに、膝から下の感覚がなくなっている。