《儀式》がはじまった
気のせいか、立ち並ぶ柱の間隔がひろくなったような気がしてきたとき、目の前には広い円形の空間があった。
広場のまんなかにはキングサイズのベッドサイズほどで、厚さは十センチほどの石の板が置かれている。
ノース卿はゆっくりとその石にちかより、手にした燭台を下に置くと、かかえていたジェニファーを石板の上へと横たえた。
「・・・あんた、自分の花嫁をそんなとこに置いてどうすんだよ?」
自分の声がふるえているのをジャスティンは感じる。
落ち着くように呼吸を整えたが、先に目にした『もの』がそれを許さなかった。
うすぐらいあかりの中だが、この円形の空間のさらにむこうに、ばかみたいに細長い階段と、そこをのぼりきった上にある、まるで『棺』のようなもの。
いや、棺にしては長さがないし、変に深さがある。
弱い明りの中にうかぶそれは黒い色のようにみえたが、『黒いもの』で汚れているようにも見える。
――― まさか、ほんとうにあそこに生贄を?
それとも、あの棺の上で、女たちの首を断つのだろうか。
あの黒いものは血の汚れなのか。
「 そう。 これがわたくしの『花嫁』となる女だ 」
肩越しにふりむき微笑んで見せたノース卿はマントの中から革の袋をとりだすと、ジェニファーのまわりにその中身をまきはじまた。
煙のようにまきあがるそれが、ただの白い粉ではなく、『灰』なのだとすぐに思い当たる。
じわじわといやな汗がにじみだし、いま来たむこうをふりかえり、息をのんだ。
――― ふさがってる!?
ここにくるまでに通った、柱が左右にあった道はなくなり、今いるのは《柱にかこまれた》閉じた円形の空間だった。
「そんな うそだ!」
思わず叫んだときノース卿の低い声がなにかをとなえはじめた。
ぞわりとジャスティンの腕があわだつ。
――― 儀式がはじまっている?
予想していたのは、ローランドのパーティーのように大勢の人間が集まったものだったのに、この男はジャスティンだけを《参加者》として、それをはじめている。