どこかの宮殿
あいかわら闇の中にはなにかが《いる》気配。
先を行く影はまるで急ぐようにすすんでゆく。
ジャスティンは離れすぎないようにあとを追う。
彼が手にしたろうそくだけが唯一のあかりなのだ。
すると唐突にノース卿が止まり、手にした燭台を高々と掲げた。
揺れる蝋燭の光に、扉のようなものが照らし出される。
――― う・・そだろ・・
その扉を見上げてジャスティンは息をのむ。
地面の下だろうこの空間に、こんなでかさの扉をどうやって、と自分を現実に引き戻すべく考えていると、扉がすうっと開かれた。
「はは・・自動ドアだ」
自分を笑わすためにつぶやき、先に入ったノース卿を追う。
踏み込んだ部屋の広さと、天井の高さに圧倒され立ち尽くした。
見上げた天井は闇にのまれてただの黒い空間だった。
その天井を支えているだろう太く長い柱が等間隔で並び、左右対照のまま奥までずっと続いているのが確認できたのは、すべての柱に、ごてごてと装飾された燭台がつけられ、うっすらとした炎があったからだ。
思わずつかんだ腕の皮膚をつねりあげる。
本当に現実か?
ゆっくりと進みながらみまわした空間の広さとつくりに、昔博物館でみたどこかの宮殿のようだと思う。
ただ、足元だけはさきほどまでのきれいにしきつめられた石の床ではなく、乾いた土になっていた。
さらさらとしたそれが、ジャスティンの靴を白く汚す。