№52 ― 正装
№52
取り巻くのは闇とはいいがたいものだった。
――― なんだってんだ!ぜったいに《何か》いるぞ!
先をゆくノース卿の姿さえものみこまれそうな黒い空間には、ずっとこちらを見送る気配があるのだ。
それも、左右上下から。
――― そうだ、ライター
さきほど火が消えたときに胸ポケットに突っ込んだはずだ、とさぐるが、ない。
あせってジーンズのポケットをたたいていると、良く通るノース卿の声が前から響く。
「そうだ、あなたも参加なさるのならば、ぜひともこれを」
なにを?と聞き返す前にぞわぞわと悪寒がおそい、ふわりと柔らかいものがまとわりついた。
思わず悲鳴をあげて両手をあげればただの布で、どうやら前を行く男と同じような黒いマントだとわかる。
「それが参加するための正装です」
足もとめない男の背中を見ながら、いったいどこにいる誰がこれをこの暗闇の中で自分にかけたのか、などと聞きたくなく、ジャスティンはとびあがった心臓をしずめるために、どうにかいつもの自分をひっぱりだす。
「『正装』にしちゃあ、ずいぶん地味なんだな。それに、・・・そうだ、さっきあんた、ジェニファーを『花嫁』って言ってなかったか?結婚するってのか?その子と?」
たしかにこの男は独身だけど、この結婚には反対したい、とこんな状況なのに思う。
「『式』って言ったよな?じゃあ、おれがこれから参加するのは、あんたたちの結婚式ってことなのか?女を生贄にするっていう《儀式》じゃなくて?」
「生贄?わたくしたちの《儀式》にそんなものは存在しない」