『そういう人たち』
「あそこでしか本物の『力』が働かないのよ。 教わった通りに家で同じようにしても捧げた動物は燃え尽きなかったわ。ただ頭の中の声はどこでもするのよ。どこにいても ・・・。 一度だけ、面接した心理カウンセラーにきいてみたんだけど、『集団催眠』だっけ? それのせいでなにもかも本物にみえたんだろうって。だから頭の中の声もそういう催眠術の一種だろうって話しなのに、けっきょくあのカウンセラーじゃそれが解けなくって、 ―― 声はいまだにきこえてる」
「両親には話した?」
「なんでよ?あの人たちに、なにができるっていうの?」
ライターの小さな炎に照らされたジェニファーの顔が、一瞬で無表情になる。
彼女の母親が何をしてしまったのか、ここで告げるべきかどうか迷い、開けた口をとじる。
「・・・とにかく、ここを出てからだ。そういえば、マークに呪いをかけたときは?」
ああ、あれね、と、彼女の顔がまた楽しそうな表情をうかべる。
「からだの一部をもらうのは、本格的な呪いで、わたしにはできないから、いつもうちの近くをうろつく『仲間』の人に人形を渡して頼んだわ。 ノース卿の儀式に出てから《そういう人たち》が、かならず、目の届くところにいるのよ」
『そういう』ってなにか目印でも?ときくジャスティンに、すこし考えて困ったように唇をこすった。
「目印って・・その、いえ、そうじゃなくて、・・・わかるのよ。とにかく、『そういう人』だって。 そう、それでわかったんだけど、うちの近所のクロードさんだってほんとうは『仲間』な、の、に、」
かくん、と何かが抜けたように、ジェニファーがその場に倒れた。
「ジェニ、っつ!?」
ぞわぞわと寒気がはしりぬけ、風もないのにライターの炎が大きくゆれて消え、またすぐについた明かりは、ジャスティンの持つものではなかった。
燭台にのった太い蝋燭の火が、その男の顔を照らしだす。
「 ―― おやおや。『花嫁』を連れ出したのはあなたでしたか。見つかってよかった。 もうじき『式』がはじまるのに。花嫁がいなくては、はなしにならない」