子鬼
「 ―― わたくしが《あれらの仲間》だと? とんでもありませんわ」
マイクに目をやる。
「 言いましたでしょう?あなたがたに道をしめしたいのです。そして、・・・怪我のないようにしてさしあげたいの。 まさかあんなに《奥》にはいってしまうなんて思いませんでしたが、でも、まだ間に合いますわ」
そしてウィルをじっとみて、眉根をよせた。
「・・・あなた、あの『サウス一族』でいらっしゃるでしょう?そのせいで、すごい数の『子鬼』が見物しようと出て来てしまってるのです」
「へえ・・・、きみ、ぼくのこと知ってるわけ?『魔女』にまで知られてるって自慢しようかな。でもさ、『子鬼』って何のことだよ?まるで、ぼくの一族が何か悪いことしたみたいじゃないか」
ウィルの顔が不快げにゆがむ。
「もう、・・・忘れ去られたことですのね。―― あなたが『子鬼』を知らないとしても、『子鬼』たちのほうはあなたのこと存じてますわ」
女の最後の言葉が終わらないうちに、何かがすごい速さでザックの足元をよぎった。
驚いてよけたそれが、かちかちと爪のあたる音をさせ、近くのスチール棚をのぼりはじめる。
「な、なんだよ、あれ・・・」
ネズミよりもはるかに大きく脛の中ほどまである大きさの二足歩行の黒い生きモノが、鳴き声のようなキイキイという音をだしながら不器用に棚をのぼってゆく。
「ネズミじゃ、ないよねえ?」
ウィルが気持ち悪いなあと言って棚をのぼろうとするそれを思い切り蹴った。
ぎゃっ、と子どものような悲鳴が響きわたり、みながぎくりとする。
「かわいそうなことなさらないで。あなたのご先祖が散々この『子鬼』を退治したので、みんなあなたのこと、 ―― こわがっていますの」
蹴られた黒い影が床に転がり、のぞきこんだ二コルが「コウモリとサルの間みたいだな」とそれをつまみあげようとしたとき、「毒があるかもよ」というルイの言葉にあわてて手をひっこめた。