たおれた男
ふせろ!と怒鳴るマイクが、とんできた本を銃のグリップでたたき落とす。
ザックは自分の目にしているものが信じられず、頭をかばいながらあたりをみまわした。
部屋の壁にある棚から、たくさんの本が飛びだし浮かび、自分たちめがけて突っ込んでくるのだ。
しかも、あの嫌な笑い声たちが、まるでこの騒ぎを楽しんでいるかのように響き渡る。
「どんな手品だよ!?」
思わず叫べば、笑い声がいっそう高くなった。
そんな中で誰かが数発発砲し、耳障りな笑い声がぴたりとやむ。
二コルがむけた明かりに浮かんだマイクは立ち上がり、天井に、自分で開けた穴をみつめて、「―― そこか」とつぶやいている。
リンゴオオオン リンゴオオオオン
「また鐘か?いったい何時に鳴るようにしてあるんだ?」
ニコル立ち上がり、ザックに手を貸す。
あれだけ騒いでいた《観客》たちの気配はすっかりなくなり、ルイが本来の部屋の電灯をようやくつけた。
「 おい、―― たおれてるぞ」
舞台には、さっき姿を消したはずのマントの男が倒れている。
マイクが走って舞台にのぼりながら、さきほど自分が天井に撃った弾がはねかえって当たったのかもしれないと叫ぶ。
ルイがそれはないと思うといいながら、ザックに携帯がつながるかどうか確認するよう指示する。
言われる前に救急センターに連絡して車両の手配をしていたザックは、救急隊員と会話しながら足元の本を苛立たしげに蹴った。
舞台に倒れた男に応急処置をほどこそうと仰向けにしたマイクとルイがそろって驚きの声をあげて身をひいた。
「こりゃいったい、・・・どうなってんだ?」
言いながらもルイが男の首に手をあて脈をみる。
衝撃から立ち直れないながら、マイクも倒れた男のマントをひらき、からだに何か機械類が隠されていないかさぐった。
そばに来たザックも二コルも、倒れているマントの男を呆然と見おろすしかなかった。
そこに倒れているのは、ほとんど《ミイラ》と言いってもいいほど、細くひからびた男だった。