『試される女』 ― エミリー
『 そしてようやくおまちかね
さいごの《試される女》はいかように 』
『え?あたし?―― ええ、まあ。そう、これからね。役者志望なの。まずは職をさがしてお金をためて、それからどこかの団体に所属して・・・それが普通でしょ?・・え?あなたが?ふうん・・・まあ、いいわ。受けてみようかしら。でも、嘘でしょう?あなたがここの中央劇場に顔がきくなんてうまい話し』
四人の男の背後に、笑いながら顔をあげる女がいた。
まだ頭部の見つかっていないエミリーだ。
次にルイの前に現れたエミリーはうつむきかげんで立ち、自信がないわ、とつぶやいた。
『 その人偉いんでしょう?お金もあるし、わたしになんか、目もくれないわ・・・っふ、っく、っはははははは、笑っちゃう!どうだった?《自分に自信のないおとなしい女》って感じでしょ?ごらんの通り、今はご指定のエミリーでずっと通してるんだから。 ―― ほんとうはこういう《女》大嫌いなんだけど、《役》じゃしかたないわ。 ・・・ねえ、どう?もうかれこれ二年近くやってるんだけど、そろそろクライマックスかしら?そうしたら、いよいよ本当にあの舞台に呼ばれるのね? 『中央劇場』になんかに憧れてたのが笑えるわねえ。ほんと、あの舞台こそが、本物よ。役者は命をかけて芝居するっていうけど、誰もほんとうには死なないじゃない?あたしは、 ―― 本物だもの』
ザックにむかい、黒いドレスのエミリーが両腕をひらいて叫ぶ。
『大嫌いな《真面目なエミリー》さようなら!好きな食べ物を断って、派手でセクシーな下着も変えて、レストランでひたすらおとなしく稼いだお金でどうにかその日を暮らすだけの女!あのじじいがそんな女にいれあげて、いったい何度、―― あたしを愛してるって言った?・・・どれだけお互いを欲してても怒らず、問い詰めもせずに半端なセックスにつきあって、ただ、あたしを愛してるって・・、―― あたしは、・・・あたしは命をかけてあの男を愛したわ!だって、そういう『役』だったから!あたしのこのお芝居は、今日のこのときのためにあったのよ!あたしはようやく花嫁になる!』
リンゴオオオオン
リンゴオオオオン
あたりに現実の劇場の鐘が鳴り響く。
浮かんでいた女の残像は消え、舞台に明かりがもどる。