代理人トマス・コネリー
「きみたちに頼まれたケイトの絵の代理人、トマス・コネリーの焼身自殺だけどね。こっちとしては何もないんだ。あのガソリンを買ったのも本人だって確認とれてるし、それに、部屋の中はすべて焼けて何も残ってないからねえ」
端末機をいじり、そのときの資料をみんなへと送る。
二コルがうなずき、自分たちが『掘り当て』した作業を報告する。
「こっちもなにも見つけられなかった。《会計代理人資格》をとってから十年以上たって、所属していた会計事務所から独立。仕事も順調。健康にも不安なし。さらに妻とかわいい子ども二人がいて、そのころまだ十歳にもならなかった子どもたちは二人とも独立していて、奥さんがひとりで暮らしてた。いまだに、あの日のことは一日でも忘れたことはないって言ってたな」
「ニコルはいっしょに泣いてたからね」ぼくは奥さんにちゃんと質問してきたよとウィルがあとをひきとる。
「まず、ケイトの絵の話しは、どうやら事務所を通してではなくコネリーに直にきたみたいだ。『学生の絵をばかみたいな高値で買いたいのはきっと、絵を描いている人物を買いたいとおもってるんだ』って家で怒ってて。奥さんにはきっぱりと、その仕事は断った、と言った」
でも、やってたんだろ?とジャンがきく。
「ま、奥さんは知らなかったらしいけどね。 ―― なんだかひどく沈んだ顔になることがふえて、妻にはなにも心配するなって言ったけど、そのあたりから、仕事の収入が増えだした。上流階級の人間から彼を指名して仕事がくるようになったり、そういうパーティーにも夫婦そろって呼ばれるようになって、それがあたりまえになっていって、事務所も独立した。 ―― これって、ケイトの売買を仲介したおかげだろうね。でも奥さんは、まじめな旦那に仕事運がめぐってきたんだろうと思っていたってわけさ。 ところが、旦那のほうはそういう人間たちとは、関わりたくないようなことをもらしていたって」
「脅されてたんじゃねえの?」
ザックの言葉にウィルは前髪を払った。
「ありえるけどね。―― でも、絵の代理の仕事は彼がすべてひとりで行っていたから、何の証拠も証言も残ってない。あ、でも、」
そこで、コネリーが独立するときにもといた事務所からひきぬいた一人の女性の証言をつけたした。
「素敵な白髪の彼女がいうには、コネリーが独立したのは野心からでも奥さんからの叱責からでもなく、あの事務所にいるのが嫌だったんじゃないかってことを言ってた。彼女の勘では、同じ会計士仲間にがまんできないやつがいたんじゃないかってさ」