№48 ― ケイトの姿
№48
『カンドーラ?ああ、星の恵みって聞いたことあるわ。え?・・・父親?』
声とともに、微笑んだケイトの隣に新たに戸惑ったケイトがあらわれた。
不安げな顔をみて思わずその肩をつかもうとしたザックの手はそれをすり抜ける。
「落ち着け」とマイクの低い声がした。
「 ・・・どういう仕掛けかわからないが、おれたちは映像を見せられているだけだ。――彼女はもうここにはいない」
わかってはいるが、すぐそばにみえたケイトは、本当にそこにいるかのように見えたのだ。
何もつかめなかった手をザックがにぎりこんだとき、舞台にいるマントの男がまたしてもよく通る声で言った。
『 《約束の女》は、母親に対する不信を絵に描く女。
絵にうずまくは、にごってかたまりひび割れ傷んだ心。
わが王のはじめての糧としてはこれ以上にない味わい 』
「くっそ、なに言ってやがんだ!」
怒りをおさえられずにザックはさけんだ。
するとまたケイトの幻が横から現れる。
怒ったような笑っているような表情で、ザックのまわりをうろうろしながら、両手を振った。
『あの人が?契約した?いったいなにを?・・・自分の・・父親を?うそ、うそよ・・・あんなくそまじめで頭が固くてなにかっていうと神様のはなししかしない人が、・・・父親を・・・?』
ケイトはそばにあらわれた椅子にすわり、上目づかいにザックを見つめた。その目にはみるまに水の膜がもりあがり、ふと視線がそらされた。
そこにいないのはわかっていても、ザックはあわてた。
「 ケイト、君のお母さんにも、その、 いろんなわけがあって、ちくしょう!彼女になんでそんなこと言ったんだ!」
いきなり、ぎゅっと肩をつかまれる。
ふりはらってわめこうとしたザックは、二コルの顔をみあげて言葉が消えた。
いつだっておだやかな愛嬌のあるその顔にいっさいの表情がない。
太い首に浮かんだ血管が、その怒りをあらわしていた。
『―― かわいそう あの人』
いつの間にかケイトは向こうの舞台にもどり、つぶやいた姿はすっと消え去った。
「クソがっ」いつもは口にしない言葉を吐きだすニコルが、構えなおすように銃口をマントの男にむけた。