いっぷく
返事をする前にゆっくりと空気をすう。
湿ってはいるが、空気は動いている。
指先の感覚はまだおかしいが、頭痛はおさまってきた。
わかってはいるが、銃はどこかへ消えていた。
ゆっくりと首をまわす。
「 ・・・残念ながら、好きで捕まったわけじゃないんだ。だけど、大丈夫。 ―― とにかくこの部屋から出ることが脱出への一歩だから」
「ここから!?」
どうやって、と非難の色をこめた声を耳に、そっと足を動かす。
しびれたような重い感覚。だが、意志どおりに動く。
上は暗く見えないが、かなり高い天井のようだ。
床はすべてこまかい模様をえがくように大小の石がはまっている。
部屋の壁は意外にもすぐそこにある。これもまた石。
その壁の上の方に、暗い色のガラスをかぶったランプが置かれていた。
ジャスティンの背でも届きそうもないが、まだ重いからだをうごかして立ち上がり、いちおうその壁をよじのぼるつもりではりついた。
―― ん?
胸に何かを感じ、煙草をやめてからつかうこともなかったシャツの胸ポケットをのぞくと、なぜかオイルライターが入っている。
おかしい、と思いながらもその蓋をはじいた。
「なるほどね・・・」
ライターのあかるい炎でみまわした石の部屋は、窓もなくもちろんドアもない。
「この部屋って、どうやって出入りするのか知ってる?」
「わかんないわよ、わたしは寝てる間にここに移されたし」
「おれは?どうやってここに転がされたわけ?」
「音がしたわ。投げ出されるみたいな。それでわたしも目がさめたから」
なるほど。彼女はこの部屋の仕組みをしらない。
さて、と思ったとき、炎がゆれた。
「―― 風が、通ってるわけだ、な?」
腰に当てた手が、尻のポケットからはみでたものにふれた。
取り出せば、見覚えのある『箱』。
思わず笑いがもれるのを、ジェニファーがききとがめた。
「なによ、笑いながら『煙草』なんて吸ってないで、はやくここからだしてよ!」
そのクセのある味に舌をしびれさせながらジャスティンは『煙草』をふった。
「まあ、とりあえず、 きつけの一服ってやつだからさ」
笑いといっしょにもれた煙が、ゆっくりとうごくのを目で追った。