勝手に選ばれたジェニファー
「・・・きみ、ジェニファー? ひさしぶりだね。おれのこと、覚えてる?」
声も言葉もなめらかに出せた。ただ、まだ体を動かせない。
「だれ? あ、あのときの警察官?」
声と気配が一気にせまり、上になった左肩をつかまれた。
「ねえ、応援は?ほかの警察官も来るのよね?まさかあんたひとりで来たんじゃないわよね?」
ゆすられて頭が痛むのをこらえてわらった。
「もちろん来るよ。ただ、《ここ》にすぐ来られるかは、保証できないけど」
黒い影がジャスティンをまたぎ、顔をのぞきこみ膝をついた。
「何言ってんの?あんた警察官でしょ?はやくわたしをここから出してよ」
こちらの身体をゆするジェニファーは前会ったときのようなどぎつい化粧もなく、かわいい素顔のままで、どこかでみたような、時代がかった黒いドレスを着ていた。
「 はは。その衣装なんだい?どこかの芝居にでも? なんだっけ、『オーディション』にでも受かった?」
ぱちん、と左頬を叩かれた。
「たすけてよ!好きで受かったわけじゃないのよ!勝手に、むこうが選んだのよ!」
叫んでなきじゃくるその顔をみていたら、次第にもやもやしたものが晴れていった。
――― だからおれは女にもてないんだな。ジャンならきっと・・・
「・・・だいじょうぶ。ぜったいに助けるさ。そのためにここに来たんだから」
いいながらゆっくりと腕を動かし、上半身をささえて起き上がる。
最後に一撃のような頭痛がしたが、完全に体をおこすと痛みは去った。
すねたように泣くジェニファーの手をとってにぎる。
「ここに、閉じ込められたのはいつ?」
「・・・閉じ込められたわけじゃ・・・。わたし、自分でここに来たの。地下鉄の《秘密の道》をつかって・・・」
地下鉄?なるほど、そういう道があるのかと納得してから、改めてたずねる。