『約束の女』 ― ケイト
まるで地下道に浮かんだジェニファーのような『白い影』は女で、そしてそれは動き、座り、絵を描いていた。
「あれ、・・なに?」
どうなってんの?というザックに、きっと立体映像だよ、とルイが言う。
「そういやこの前新聞に載ってたな。隣の州で、新しい劇場で立体映像の芝居をやるって」
二コルの説明にザックは不安そうな顔をみせた。
「でもあれって、・・・」
「そう。ケイトだ」
闇に明るく浮かび上がり動いているのは、十二年前にバーノルド事件のはじめての被害者となったケイト・モンデルだった。
まるで生きてそこにいるかのように動き絵を描き、合間に立ちあがって踊るように体をゆらし、遠くから絵を確認してまた座る。
彼女のくちずさむ鼻歌が聞こえてきて、ザックは息が苦しくなった。
あそこにいるのは、『生きている』ときのケイトだ。
そのケイトの微笑む顔が、いきなりザックのそばにあった。
意志の強そうなまなざしで見つめられ、どきりとしたら、その薄い唇がゆっくりと開いた。
『 ここってすごくいい場所。気に入ったわ。あたし、ここで絵を描く。それをあなたに直に納めればいいんでしょ? 音楽聞いてても誰にも文句言われないし、眺めは最高だし。あ、でも、風景を描くわけじゃないのよね。わかったわ。あなたの望むものだけを描くわ 』
振り返って微笑むケイトは、ザックにそう言った。