この部屋はとくに
「『棚』?大道具ですかな?まあ、いわゆる『劇場』ですから、気をつけていても、その手の話はわりとありますよ。 『行方不明』というのは、十数年前に女優が当日行方不明になって、後日駆け落ちしてたのが見つかったなんてのがありましたな。・・・もしかして、バーノルド事件にかかわりある者が劇場にいるとでも?」
それこそ信じられないしいいがかりだと言うように眉をつめたハドソンに、違います、と大きな手をふった男は言葉をさがした。
「えーと、そうじゃなくて、その、・・・不思議というか、俗にいう超常現象というか、まあ、怪談みたいなものとか・・・」
説明につまるのに、ああそっちのほうか、と笑ったハドソンは角をまがった。
「 『怪談』というか、まあどこの劇場にもあるものなら。それこそ、女の歌声が聞こえるとか、何か変な音がするとか、そんなもんですかね。 そういや、この部屋なんかとくにそういう噂がありますがここは造りも特別ですし、古い物もしまわれていますから」
このまえ入った部屋のドアにたどりつく。
「 ・・・この劇場の中でいちばんノース卿に関係が深い部屋がここです。ただ覚えていてほしいのは、ここにある寄贈品に罪はないということです。 でも彼が本当に犯人ならば、ここにある品もどうなるか・・・・・わたしは事務所にもどっています」
二コルの持つ鍵束から一つをとりだしてさしだすと、部屋の中をみることもなく暗い廊下に力なくまぎれて去った。
「あの人、ほんとにここを愛してんだな」
ぽつりとザックがつぶやき、二コルが鍵をさしこんでドアを開けて入る。