ゆるせない
「これで!はやく!どこでも開けてさがしてください!」
押し付けるように二コルにそれをわたし、脇にかかえていた紙束をザックに差し出す。
「この劇場の見取り図です」
表紙には、赤いインクで『極秘扱い 持ち出し厳禁』とある。
ザックが戸惑いながらも受け取ると、暗い廊下のむこうから「まて!」と怒鳴り声が響いた。
続けて、誰に許可をとったんだ!と叫ぶのに、息をきらしたハドソンが怒鳴り返す。
「ここにいらっしゃるのはサウス卿のご子息だ!この劇場建設のほとんどの資金を提供してくださった方の許可を得てるのとおなじだろう!何の問題があるって? いいか、この劇場の地下であの悲惨な事件が起こってるかもしれないんだぞ!それを、《上》の許可がないと捜索もさせないなんて、何もするなってあんたは言うのか!?」
さあはやく、と背中をおされた警備官たちを、まて!と声が追う。
ウィルがわざとらしくコホンと咳払いし、追ってきた男に「サウス一族のものですが」と名乗ってゆく手をふさいだ。
ルイがハドソンの背を押して一緒に暗い廊下を照らしながら進む。
「助かった。でもあんたが、まずい立場になるんじゃないか?」
「そんなもんいいんだ、わたしはこの劇場を愛してる。 ここがほんとうにそんなひどいことに利用されているとしたら、ゆるせないんだ」
暗い廊下を急ぎ足ですすみながら会話が続く。
ザックが、それならもっと早くに鍵を貸してくれればいいのに、と言って二コルに頭をこづかれる。
「そうですな。―― でも、・・・まず、この劇場に地下室があるなんて話は、なかなかのみこめませんでした。なにしろわたしたちは、この劇場のすべてを知り尽くしていることを誇りとしている者ばかりです。 なのに、そんな部屋があるだなんて・・・信じられません・・」
きっと、いまだに信じられないのだろう男が廊下の角を曲がる。