№46 ― マテ
№46
天井にはめ込まれた絵にライトをあて、みあげた二コルがうめいた。
「あのときは気づかなかったけど、見ろよ」
光のなかに、たくさんの蛇を足元に侍らせた女の絵が浮かぶ。
普通に植物や動物、人を描いたものに紛れ込むように、獣と人を合わせたような怪物の絵もある。
「あの教会の趣味がここでも生かされてるってことか」
眉をよせたルイが疲れたように首をまわしてもどす。
数日前にも訪れた中央劇場のここは、ちょうど劇場から裏方の建物へとつながるところにあるホールで、またしてもここでハドソンを待つことになっていた。
「なあ、まだかよ~」
しゃがみこんだザックがこどものように聞くのに、ルイが片手をあげて、マテ、と犬に命じるようにした。
「・・・こんなことになるなら、ここの建設時の設計にウチもかかわっておけばよかったよ」
大理石の床でウィルがつま先をならす。
街のいたるところから地下通路がこの劇場の地下である『遺跡』に通じ、そこには姿をけしたジェニファー・ハワードや、ジャスティン・ホース。そして、事件の最重要人であるノース卿もいるであろうという話は、今現在もきっと、ギャラガーとバートが警察機構検事局に必死に理解させようとしている最中で、捜索許可がおりたという連絡はまだはいってこない。
《ノース卿》という貴族の壁を壊すのになかなか手間がかかるんだろう、というルイの言葉に、ウィルが床を蹴ってため息のようにこぼしたのに、二コルが首をふって肩をたたいた。
「『こんなことになる』なんて、誰にも予想もできなかったさ」
ヤニコフからもらった資料を手にギャラガーのもとへ行ったバートから、ここに着くまでに一度はいった連絡では、『遺跡』と『劇場』を管理する文化省の了承をとるのに、また別に時間がかかりそうだというものだった。
警備官たちは迷いもなく文化省の元役人であるエミリーの恋人に連絡をとり、すぐさまジャンが彼のもとへとむかった。
ケンはまだ、ジェニファーが消えた付近にヤニコフでも見落としている地下道があるのではないかと探し続けている。
「許可がないと何もできない警察官って、こういうとこが不便だな」
ルイが劇場の事務所がある方向の廊下をライトで照らし、反対に光をむけて大柄な警備官の影に隠れるように立つマイクをてらす。
「 ―― おれはべつに、前に出てもいいんだ。・・・でも、ジャンが出るなって」
本当にケンに扶養されたら洒落にならないからなとニコルが笑った。