証言が一致
ヤニコフは病的なゴードンの手書きの資料すべてに目を通し、整理した。
そこにみえてきたのは、この州のなりたちからバーノルドの森の役割と、その森を管理していた『神官』の存在。
『森』は神と死者をつなぐ場所であり、儀式をおこなうための神聖な『教会』の場所がうかびあがってきた。
「 ―― ただ、ヤニコフ先生のいうには、おれたちの感覚でいう『教会』とそれとは違うらしい。そこは生贄の『儀式』をおこなうための場所だ。 神官と神様がはなしあうための場所だから、他の人間は入れないらしい。 ノース卿の『儀式』は《見物人》たちがいたとおれたちは思ってるけど、それはないはずだってヤニコフは言うんだ。―― まあそれはいいとして、とにかく、その『教会』ってのは、おれたちの良く知る場所にずっとあって、マデリンのはなしにでてきた『邪悪な存在』が閉じ込められてたって言う」
「中央劇場だな」と言葉をはさんだマイクにニコルはうなずく。
「ゴードンの残したものでみると、この州の《中央》に当たる場所で、神官は儀式をおこなうはずだとヤニコフは断言した。 ―― ちなみに彼にはマデリンの話はしていないのに、あそこで『生贄』を欲してるモノがいるっていう結論になったんだ。 こりゃあいわゆる《証言が一致した》ってことだろ」
断言にマイクは額を指でたたき、でも、と唸った。
「劇場に地下なあ・・・そこはまだ信じられないな。本当に遺跡をそのままで、上にあの建物を建てたっていうのか? だいいちそんなこと許されるのか?」
許させたんだろ、とケンがマイクの持っている紙束をとりあげた。
「ゴードンが『劇場跡を発見』して新聞が騒いでたころ、ノース卿は動き出してる。ウィルの親父さんがくれた資料によれば、貴族でまっさきに寄付金を持ってかけつけたのはノース卿で、そのまま役人を手なずけていったみたいだな。 《劇場発見》に新聞が騒いだのもほんの数日で、そのあとゴードンは何も発表しなくなるし、世間の関心は、派手な『再開発』のほうに移っていったからな」
ジャンもうなずいた。
「ノース卿にとっては、世間に知らせたい『遺跡』じゃなかったんだ。 新聞が書いた《大昔の劇場あと》じゃなくて、自分の先祖が《儀式》をしていた場所なんだ。 生贄をおき、見物人がいたかはわからないが、それを見下ろすために席がつくられてた」