容疑者のひとり
ドアがひらき、はじめにケンがいつものにやけた顔をみせ、紙袋を置いていった。
続けてはいってきたザックが、ひっでえ顔、と言ってなにやらピンク色のジュースの入ったカップを置いてゆく。
若者二人に気遣われてしまった男はしかたなく、紙袋からあたたかいマフィンをとりだしてかじり、ジュースを飲んだ。
「へえ。新発売のマフィンだな」
通り過ぎるときにジャンが鼻をひくつかせた。
腕時計をみたマイクに、もう少しでニコルとバートが帰ってくる、と言う。
「なんだ?どこか行ってたのか?」
「ヤニコフ教官のことは知ってるだろう?」
「ああ。会ったことはないけどおまえらの《掘り当て》の報告で」
ヤニコフは、ナタリが行方不明になってから半年の間は、祖国の大学からの招待へ飛びつくようにしてこの地を離れ、戻ってから彼女の頭部が見つかるまでは、容疑者からもはずされていた。
「 ―― おまえらが引っ張り出した『告白』がなければ、彼はただの彼女の担当教官で終わっていたが、あの報告で容疑者の仲間だっていう見解がでたわけだ。いまじゃうちの人間がしっかりはりついてる」
「警察官じゃそういう扱いだろうが、おれたちにとって彼はこの事件の『核心』をつかむことのできる《重要な人物》のひとりだ。―― 彼は、自分が死人を紹介したために生徒が事件にまきこまれたとひどく悔やんでいるし、その死人であるゴードンについて、おれたちにわかりやすい説明をしてくれる。 だからゆきづまったおれたちを代表して、二コルとバートが話を聞きに行ってる」
「おいおい、うちじゃまだ容疑者のひとりだぞ」
あきれた声をだすマイクにケンが、「パパ、ジャスティンみたいなこと言うなよ」と言って黙らせた。