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心から祈る
白く照らされた部屋にはいりこみ、身をかがめたまま外をのぞくと、中庭らしい芝生がみえる。
空には月。
それだけでこんなに見えるのかと驚きながらポケットからにぎりつぶした紙幣をだす。
明日の朝、この部屋に人は来るだろうか?
部屋の中にはいくつものスチール製の棚。
そこに整然とおさめられたいくつもの箱と床に積まれた紙の束。
どうやら事務用具関係の在庫置き場所らしい。
これから上演されるらしい芝居のポスターも印刷所から送られた状態で積まれている。
その一番上に、シワをのばした紙幣を置いた。
もし、なにかあったとしても、この芝居の上演が近づけば気づいてもらえるだろう。
月明かりに慣れた目で棚からペンをさがしてポスターに署名した。
「 ―― いいね。おれが主演ってかんじで」
自分を笑わそうとしたのに、うまくゆかなかった。
息を吸って、吐く。
握ったこぶしで額、胸、と軽くたたき、生まれて初めて、『神様』に心から祈りをささげた。