壁を伝い
おかげで人の気配だけを気にして進めばよかった。
だが、突然、天井の電灯が消される。
窓もない廊下は洞窟のような暗闇になり、思わず身をすくめる。
定時の消灯なのだろう。スイッチはどこか遠くにあるらしく、あいかわらず人の気配のない廊下を、明るいときに目にした記憶をたよりに壁を伝って進んでゆく。
ようやく目的のドアにたどりつくと、ノブをそっとまわした。開かない。
これの次か?
そのとき、人の足音が聞こえた。
かつんかつんと一定の速度でこちらへむかってくる音にあせりながら壁を伝う。
見当をつけてさぐった場所にノブをみつけ、光の輪がむこうに見えたとき、ひらいたドアに身をすべりこませた。
細心の注意でもってドアを閉め、ドアノブの下をさぐるが、内鍵がみあたらない。
暗闇のなか身を縮めて足音が過ぎるのを待つ。
かつん、とドアの前で音が止まった。かちゃりとノブがまわされる音。
白い光がさしこみ、部屋をなめまわしてから閉じられた。
ドアの裏側にいたジャスティンは、ふうううう、と自分の心臓の音を整えるために息を吐き、吸った。
警備員が中にむけた明かりのおかげで、部屋の造りがだいたいわかった。
この部屋に窓はなく、奥にはさらにドアがあった。
ゆっくりとすすみそこへたどりつく。
そっと開けたドアのむこうは、驚いたことに明るい。
電気ではなく、窓からはいった月の明かりのようだ。