最初の糧(かて)
「そ、それは・・・。 でも、あんたはハロルド・デ・ノースがどういう人物か知ってたんだ。ならやっぱり、もっと早くに話すべきだった。 ―― そうしたらもっと早くノース卿に手がまわって、次の犠牲者をださずに済んだはずだ。・・・たしかにぼくだってまだ、あんたの言うその『邪悪な存在』を全部は信じられないさ。だけど、はっきりしてるのは、ゴードンもノース卿も、その『悪』の存在を信じたからこそおかしくなって、この事件はおこったんだ!」
「ウィル、落ち着け」
テーブルを叩く男は上司の言葉に眉根を寄せた。
「落ち着けるか? だって、第一の犠牲者が自分の娘だろう? あんた、いなくなった娘を探すこともなかったって証言がある。どうして?なんで、助けに行かなかった?場所はわかってたんだろう?信じてもらえなくたって、誰かに助けを求めるべきだったんだ。 どうして、なにもしなかったんだ?」
身を乗り出して責め始めた男の肩をつかみ、上司が椅子に押し戻す。
自分の腕を抱くように強くつかんだ女が、絞り出すような声をもらした。
「・・・どんなことをしようとも、ケイトは・・ああなる運命でした・・・」
「っ!?なにをいって、」
「決まっていたのです!!」
ばん、とテーブルを叩いて身を乗り出したのは女の方だった。
「 ―― バーノルドの最初の犠牲者は、決まっていたのです。ずっと前から!―― わたくしが、教会に逃げてフランクに出会えたのは、清い存在のおかげでもなんでもなく、あの邪悪な存在の思い通りの行動だったのです。 ―― 最後の指示をゴードンに送ったとき、わたくはようやく、これで本当におわりだと・・・、邪悪なものから解放されるのだとばかり思っていました。むこうが欲した物をすべて与えれば、『契約』は終わりなのだと思っていたのです。・・・なのに!終わっていなかった!!」
お前の役目はこれで終わる
おまえはこの先子どもを産み
その子どもが、わたしのはじめの糧となる