よくない人物
「・・・えっと、ゴードンに『最後のめぐみ』で、劇場跡をほりあてて、そしたら《それ》が自由になったってことは、つまり、・・その、―― 《それ》が閉じ込められていたのって・・・」
「ゴードンが最後にほりあてた、みなさんが、『中央劇場』とよんでいるあの場所です。 あそこにはとても『悪い力』が溜まっていて、そして、今も、あの邪悪なものが強さを増すためのおそろしい《儀式》が行われ続けています。 ―― わたくしの娘も、あの劇場の下で、・・・あそこで、《それ》に・・・、アイツに連れて行かれてしまったのです・・・」
ちょっとまってよ、とウィルが立ち上がる。
「いま、《それ》に連れて行かれたって?連れて行ったっていうのは、ノース卿じゃなくて、その、閉じ込められていた《みえない存在》だっていうの?」
「そうです。ですがノース卿が積極的にあの存在に力を与えたのはたしかです。 わたくの母はバーノルドの森が大嫌いで、生前一度も近寄らなかった場所です。そこには、むかしから良くないものが《住んで》いたから、近寄らないように、とわたくしにも言いました」
「『よくない』ノース卿が住んでるから?」
「デ・ノース一族がよくないわけではありません。ですが、《儀式》をつかさどる一族だからこそ、ときに、『よくない』ものを呼び寄せたがる人物が現れるのです」
「それが、ハロルドってわけか。・・・ねえ、どうして、もっと早く、ぜんぶ話してくれなかったんだ?あんた、ケイトがいなくなった時点で、わかってたんだろう? バーノルド事件にはその目に見えない『力』の存在があって、殺害場所は劇場の地下で、それにはやっぱりノース卿が関わってるって」
女は目をいっぱいにひらき、ウィルを見返した。
「 話したら、信じてもらえまたか? わたくしの娘は『目に見えない存在』のせいであんなことになってしまったと。他のお嬢さんたちもきっとそうであろうと、発見時に警察官に伝えて、それで信じてもらえると? 」