遺跡の上の劇場
「 ―― そうだ。たしかここの開発中に、真ん中を掘り返すように提案したのはゴードンだって、親父も言ってた」
いいながら、その父親からもらった資料をさがす。
すぐに見つかったそれを隣の男の端末機に送る。古い新聞だった。
『 劇場跡を発見!! 若き考古学者の執念 』
「 うちの親父の優秀な執事がまとめた資料によれば、ほんらい中央劇場の場所はそんなに深く掘る予定はまったくなかったらしいよ。もともと、この州の人にとってみればピクニックにもってこいの広場だったんだ。そのまま街中の広い公園になるはずだった。 それが、ゴードンのひとことによって深く掘り進め、例の劇場跡が見つかった。 ・・・だけどこれ、新聞に紹介されたのって最初のうちだけだったみたいでさ。掘って見つかったのは大きな石版のおかれた広い空間とそれを囲んだ階段状の列。どうやらはるか昔の『劇場』だったんじゃないかってことで、また大発見ってはずだったのに、 同じ場所にわが州の新しい『劇場』をつくろうってことになると、そっちに話題がうつっちゃって、しばらくしてそこを整地して工事がはじまったときには、遺跡のことはもう終わった話になってたってさ 」
つまり、とめずらしく驚いたような顔でバートが端末をのぞく。
「遺跡の上に、新しく劇場を建てたってことか?」
掘った場所を埋め、その上に現代的な建物を?
「そうだね。建てるときはかなりのお祭り騒ぎだったらしいよ。うちもかなり出資したって聞いたけど、金だけだからね。 劇場のハドソンも言ってたけど、劇場の発掘に深く関わった貴族はノース卿だけなんじゃないかな」
「ゴードンとノース卿はその遺跡の発掘で知り合っててもおかしくないのに、おまえの親父さんに紹介されて、初めて会ったっていうのか?」
「うん。・・・うちの親父がその『何か』に指示されたってのは、ないと思いたいけど・・・」
なんとなく不安になって女をみれば、彼女は首をふった。
「あなたのお父様は指示されていたわけではなく、利用されただけでしょう。 ただその方のまわりには、わたくしのように指示をうけていた者もいたかもしれません。そのころにはあの《存在》の力はかなり強くなっていて、 ―― ゴードンが最後の遺跡を掘り返したとき、《それ》は、自由を得ました」
ウィルはなぜか首筋に寒気がはしり、そこをさすりながら思考を整理した。