ここを掘れ
女の表情は変わらなかった。
「 ええ。そうです。わかっていました。 《それ》が、『神』とはまったく違う存在だということを。でも、とても力があり、そのせいでどこかにとじこめられていることも、・・・そのあとに、その力が及ぼすだろう災いも。 ―― すべてわかったうえで、わたくしは実行しました。―― あの、 ウイリアム・ゴードン博士 に手紙をかくことを」
「ゴードンだって!?」
おもいもよらなかった名前にウィルが腰を浮かす。
「 ―― そのころの彼はまだ学生でした。わたくしはまずそれの命じるままに、ある大学からウイリアム・ゴードンという人物を探し出しました」
務めを果たすウイリアム・ゴードンにめぐみを
「 彼をみつけたその日に、図書室へむかい、数冊の本を盗んで帰りました。家についてから取り出したその本に、聞いたこともない地名と数字を書き入れているところで、われにかえりました・・・。意識はずっとありましたが、図書室からは勝手にうごかされているような感覚で、絶対に、あの存在のせいだとわかっていました。 ・・・ですからほんとうはそこで、手にした本を捨てることもできたのです。 でも、―― わたくしは自分の意志で、数字をかきこんだ本をゴードンに送りました」
まさか、とウィルが喉につかえるように言葉をだした。
「―― ゴードンは、送られてきたその本をみて、遺跡たちを掘り当てたとか言うんじゃないよね?」
「そうです。彼に送った本はこの国に伝わる伝説を集めた子ども向けの本だったり、民俗学者が聞き集めた言い伝えをのせた本だったりしました。 そのなかに赤線をひき、地名を添え、掘るべき範囲の数字までかき添えて送ったのです。 ―― ゴードンがそこを掘りはじめるまで、ずっと、同じ地名と数字を書いて何冊も送り続けました」
「そりゃ、なんていうか・・・。ゴードンもずいぶん驚いて、とまどったと思うよ」
「そうでしょう、きっと。 こちらの名前も住所も書いてありません。なので、ずっといたずらと思っていたでしょう」
こわいよ、と小さくもらし、「だけどけっきょく彼はそれを信じ、遺跡を掘り当てる有名人になっていったんだね?」ときけば、女はうなずいた。




