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『強い存在』



  ※※




  それは子どものころから、感じていました。と女がどこか遠くを眺めて話す。


「 ・・・前にもお話ししましたが、人間は与えられたものだけに満足すべきでした」


「でも、寒いもんは寒い」


 録音機をテーブルに置くウィルがすかさず口にすると、マデリンは以前とは異なり力の抜けたような笑みを浮かべ、「―― わからないでしょうね」と首をふった。




 二度目に現れた警備官たちの姿に、前回と同じように驚きも戸惑いも示さなかった女は、あのソファに案内すると、こちらが何も問いを発しないうちに、淡々と語りだした。





「―― この世界に、自分たち以外の《強い存在》を感じていたわたくしは、幼いころからさまざまな不思議で恐ろしい体験をしてきました。いわゆる、目にみえないものの存在です。 母はそんなわたくしの言葉をききながし、酒浸りの父はいかって殴りました。 それでも嘘をつきたくなくて、わたくしは見たもの感じたものをそのまま口にしつづけました」


「正直な頑固者」


 どこかで共感を覚えたウィルの言葉に、マデリン・モンデルは初めて本当に笑んでみせた。


「 母にもよく言われました。彼女はわたくしの言葉に耳をかたむけることはなかったのに、嘘だときめつけることもしませんでした。 殴られるのをかばい母も何度も父に殴られましたが、悪いのはマデリンだと父にすがりました。・・・母は、わたくしの言葉がたとえ本当なのだとしても、それを人に言ってはならない、自分のなかだけで処理しなければならない問題だと言いました」


「このさき、世の中を渡っていくための心得だよ」


「そう・・なのでしょう。そしていま思うと、・・・母も同じ体質だったのではないかと思います」


 お母さんも同じように何かの存在を感じていたと?というウィルの言葉にうなずく。


「―― わたくしが十六になったときに父が亡くなり、母はそれを追うように自殺しました。わたくしを罵りながら目のまえで」


「・・・それは、どう・・」


 さすがに言葉のつまったウィルに、白い顔をむけた女は「しかたがありません」と感情のない声をこぼす。



「・・・母はわかったのでしょう。―― わたくしが、《強い存在》に、父親を『この世から消してほしい』と願ったのを・・・」



 息をすったウィルは、なんてこった、と小さくうめく。



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