確証のない確信
雑音しかはいらない。
つまみを何度もまわし、どこかでもう一度ひろえないかと試みるが、あの声はもうどこにもない。
――― ジェニファーだ・・・・・ジェニファーだった!
がさついた波音の合間の、泣いて震えるようなその声の、どこをもって彼女とするのか、自分でもわからなかった。だが、彼女だとしか思えなかった。
「 ちくしょう、どうやって、」
なんでラジオに声がはいった?どこかのそういう施設に監禁か?どうやってさがす?
考えたときにはもう車をだしていた。
タイヤをならして地上へ出る。
出入り確認ゲートへ「警察だ!」と怒鳴って素通りした。
街中には彼女を捜索中の仲間がいる。
彼らへ今のことを説明し、ラジオのスタジオを片っ端からあたるしかないか?
チャンネルの数字で場所がわりだせないか?科学班のジョニーに連絡するか?
ちくしょお、ゲートにいた警備官に、あそこでひろえるチャンネルを確認するんだった!
行き先を考えずに走らせていたが、なんとなく自分の職場の方へと進んでいる。
マイクに連絡しなくては、と気があせるが、《警備官》たちが周りにいるのを想像すると、今は伝えたくなかった。
郊外寄りにある警備会社から警察署までは、州の一番にぎわう観光通りをすぎてゆく。
一方通行規制などもあるこの辺りの道路はいつでも混みあう。
さらに仕事帰りの渋滞がかさなった時間で赤信号にもひっかかり、大通りの交差点でいらつきながら捜索方法を考えていたとき、目の前の左右から行き交う人の群れの中、ひどく悠々と目の前をすぎた人物をとらえた。
――― ノース卿!
仕立てのいいコートをひるがえすように信号を渡る男は、ケンが撮ったという画像でしかみたことはなかったが、一目でわかった。
帽子から出た髪は老人とは思えない色艶で肩にかかり、背筋はまっすぐにのびている。
歩き方もとても七十すぎの老人には見えなかった。
信号が変わる前にステアリングをまわし、左折してきた車のクラクションをかわして方向転換すると、すぐそこにあったレストランの駐車場へ突っ込んだ。
苦情を言いながら駆け寄った駐車場係へ警察官のバッジをみせて車の鍵をなげつけた。
――― やつを追えば、彼女がいる!
確証はなかったが、確信はあった。