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1の魔法 魔法少女のミルキーな憂鬱


          ☆



 一応、自己紹介をしておく。


 私の名前は小山内(おさない)瑠璃子(るりこ)


 魔法少女ミルキールリィ──なんて名前で言ったって知らない人の方が多いかな。


 でも中には、見たことがある人なんかもいるんじゃないかと思う。まるでアニメのキャラみたいな、いかにも何だかヒラヒラした可愛らしい衣装を着て真っ赤なランドセルを背負って、リコーダーにもなる魔法のステッキを手に悪い怪人と戦う、小さな女の子の姿を。

 確か本当は、存在も戦いも秘密だよって言われてたはずなんだけど……まぁそこはアレだ。いろいろ面倒くさくて、この際細かいことはいいじゃん的ノリとか勢いで、ちょいちょい人前で戦っちゃってた気もするから。


 そう。あれが私だ。



 ある日、魔法界からやってきたぬいぐるみみたいな不思議な使者プルルと出会った私は、伝説の魔法少女とやらに選ばれてしまい、変身して戦う魔法の力を与えられ、この世を悪夢で満たそうとするくらやみ魔女ネムレーヌとその一派である悪夢使いたちの手からみんなの笑顔と世界の平和を守るために──ってまぁその辺はいいか。

 いや別に世界平和がどうでもいいってわけじゃないんだけど……

 終わった話だし。


 そう。

 いろいろあったけど──いや本当にいろいろあったんだけど、

 とにかく、最終的にどうにかこうにかくらやみ魔女に勝利した私は、どうにかこうにかその力と魂とを封印することに成功した。


 長い戦いは終わった。

 世界には平和が戻ったのだ。

 たぶん。


 そして、全ての使命を終えたプルルは魔法の世界へ帰ることになり、私は魔法のアイテムと力を彼に返し、いよいよ別れの時が──


 って今ここ。


 魔法少女アニメなら最終回の後半、感涙必至のクライマックス。まさしくそんなシーン。

 感動のエンディング。

 とてもいいとこ。


 の……はずなんだけど。

 普通ならそうなるのが当たり前なんだけど。



 ひとつ、断っておかねばならない。

 声を大にして、はっきりと言っておかなければならない。


 魔法少女だなんて堂々と名乗っちゃいたわけなんだけど……


 私は、少女じゃない。

 全然、まったく、少女じゃない。


 今年で21になる。


 立派な成人女性だ。

 現役メガ盛りマックスの大学生。ピカピカの新入生どころか今やもうすっかり大学慣れしたもんで、むしろ卒業の方が近い位置に立っている。

 ……はず。たぶん。


 お酒だって飲める。

 実際飲んでるし。ビールよりも芋焼酎が好みだ。お湯割り最高だよね。


 魔法少女のお約束という奴なんだろうか。私もご多分にもれず「何の取り柄もないごくごく普通の女の子」としての人生をここまで歩んできた。

 小さい頃は、テレビの魔法少女や戦うヒロインに憧れたこともちゃんとある。

 まさかこの歳になってチャンスが巡ってくるとは思ってもみなかったけど。



 悩みが、ある。


 1つ。大きな。とても大きな。

 悩みというかコンプレックスというか。


 外見。

 私の……見た目の話だ。


 魔法少女としての私の姿を思い出してほしい。

 可愛らしいコスチュームに身を包み、赤いランドセルを背負った元気な小学生。

 そんな風に思っていた人が多いと思う。実際町の声を聞く限り、ほぼ例外なくそう思われてたっぽいし。


 あれは、変身した私が魔法の力で子供の姿になっていた……

 わけじゃない。


 あのままだ。


 何も変わってない。


 確かにコスチュームやらアクセサリーやらは魔法少女のそれにまさしく“変身”してたんだけど、それ以外の見た目というか、私自身はそのまま。

 背丈も容姿も体型も全部。

 鏡で毎日見る、いつもの私のまま。

 何ひとつ違わない。



 あのまんま、だ。


 あれが、私の姿だ。



 もう一度はっきり言っておく。

 私は少女じゃない。

 断じて少女ではない。

 れっきとした、大人の女である。


 決して子供なんかじゃないのである。



 昔から──と言ってももちろん十代半ば過ぎくらいからの話ではあるけれど、この見た目って奴が本当にもう悩みのタネだった。


 まるで伸びない背。

 あからさまな童顔。

 もう口に出して表現するのもいいかげんイヤになってくる、それはそれはもう素敵すぎて涙が出てくる感じのボディライン。


 歳相応に見られることなんてあり得ない。

 間違いなく、子供だと思われる。


 大抵は中学生。高校生以上に見てもらえた場合は十中八九気を遣っていくらか盛ってくれた結果だ。本心でそう思っているわけじゃない。ヘタすると小学生にすら間違われる。


 若く見られていいわね、なんて笑いながら言う輩もちょいちょい見かけるけど、まぁ人の気も知らないで好き勝手なもんだ。

 つくづく思う。そうじゃない。全然判ってない。

 「若々しく見える」と

 「小さな子供にしか見えない」は

 似て非なるものである。

 違う。

 全っ然違う。


 私は子供に間違われたいわけじゃないんだ。


 休日、一人で町に買い物にでも出ようものなら、あちこちで補導員に声をかけられる。

 まぁしょっちゅうだ。警官ならほぼ100%。

 説明がまた面倒くさい。免許も何も持ってないもんだから。

 身分を証明できるのは学生証くらい。それも出したところで一発で納得なんてしてはもらえない。何か怪訝な顔をかしげられる。イタズラかおもちゃか何かと思われる。挙げ句わざわざ大学まで連絡されたりとかもする。

 ようやく納得してもらえたところで向こうは謝りもしない。むしろちょっと面白げに笑われたりとかする。さんざっぱらそれをやられる側のこっちにとってはひとつも面白い話じゃない。

 子供に見える私が悪いってのか。


 大きな商業施設なんか歩いていると、迷子だと思われる。まぁ日常茶飯事だ。

 買い物でちょっと大きなお金を出したりすると、何だか怪しい目で見られる。それ誰のお金ですか?的な感じで。誰の財布からも盗ってない。私のだっつーの。

 たまに着ぐるみが風船とかくれる。


 スーパーなんかで買い物してると、今度は逆に偉いわねぇ、とか言われる。たかが夕食の買い出しに偉いも偉くないもあるか。

 アメとかくれたりする。


 映画館やバスなんかの場合、何も言わなければ確実に子供料金を告げられる。

 正規の金額を払おうとすると、親切にもちゃんと間違いを指摘してくれる。

 間違ってないんだよっ。

 大人なんですけど。

 いっそ開き直って子供料金を払う、という手もあるし、そうすりゃあれもこれも安く済むわけだけど、そこはそれ、プライドの問題だ。

 受け入れたらおしまいだと思う。


 名前が名前なもんだからまたややこしい。

 「オサナイです」と名乗ると、相手は私をしばし眺めた後、あぁなるほどとばかりにうなずいたりする。ちょっと意味ありげな含み笑いなんか浮かべたりして。

 言わなくても大体何を思ったかは見当がつくし、なるほどじゃねぇよ、と思う。

 好きでこんな名前で生まれたわけでも好きでこんな顔してるわけでもないんだよっ。


 さらに一歩調子に乗って、おさないロリ子、などとぬかしやがる阿呆は、まず間違いなくついうっかりのふりをした極めて悪質な確信犯の大バカ野郎なので、問答無用でグーでぶん殴ることにしている。

 生まれた我が子に「ロリ子」なんてド阿呆な名前をつける親がどこのマルチバースにいるかってんだっ。

 阿呆かオマエはっ!


 阿呆かっ!


 ドアホっっ!!!



 …………とにかく。


 100パー七五三に間違いない、と友人たちにもそれはそれは大好評だった成人式を経て、いよいよこれはもう何とかしなきゃいかんだろと確信したまぎれもなく大人の私は、どうにかこの不愉快な現状を打破すべく、努力することを決意したわけだ。


 外見は今さらもう変えられない。

 でもメイクやファッションひとつで、パッと見のイメージはかなりコントロールできる。


 あまり得意な方じゃないけど、我ながらずいぶん勉強もしたと思う。

 いろんな人たちにも手伝ってもらった。まぁ、その過程でずいぶんいいように遊ばれたり笑われたりしたような気もするけど。今に見てろよ。

 着られる服だってかなり限定される。けど、組み合わせいかんで明らかな子供服とは思われずに済むはずだ。


 結果──進歩はあった。


 見るからにただの子供でしかなかった私は、いくらかは年上……かもしれない、そこそこ大人っぽく……もまぁ何とか見えないことはない感じを、何となくはかもし出せ……ているような気もするまでには、どうにかなってきた。

 なってきたはず。なってきたと思う。

 なってきたに決まってる。


 まだまだ子供っぽいってのを否定はしないけど、このまま進化を続ければ少しずつ、少しずつでも大人センスに磨きがかかり、やがては歳相応に見られるようになる。

 そんな明日にもたどり着けるのではないか。

 そう思っていたのに──


 これだ。


 

 ──そう。


 魔法界からの使者である不思議生物なんてものに遭遇した私は、大人の女どころか……


 よりによって、魔法少女に選ばれてしまったのである。





     

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