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金の双樹  作者: 宮﨑 夕弦
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第五十三話「最強の魔法少女たちです」


 「フロラル!」

 リーチェは姉の名前を呼んだ。名を呼べば必ず返ってくる優しい声は、こんな時でも耳に届いた。

「立てる?」

「ボクは。でもシーラは動かすとやばい」

 フロラルは一瞬だけシーラの様子を見た。

「不甲斐ない」

「ごめん」

 リーチェは俯いて謝ったがフロラルは首を振る。

「違うの。私が、です。アイリスとユニは壁の修繕に行ったから私達だけでやるよ。取敢えず、押し切る」

 フロラルは双子の位置を確認し精霊を挟むように位置どった。精霊は腕を再生させるために地面から砂を吸い上げ、腕を作り上げるとシールドを再生して再び星空を覗かせていた。


 精霊が怒りに任せ拳を振るう。だが当たっているはずだが手応えがない。 暗闇の視界に青白く浮かび上がる人影は、一つではなかった。そもそも人の影は赤く見えるはずだったが、見知らぬ魔法を使う相手は青い光跡が揺らぐように見えている。

 声は一つだが影は三つ。

 初めて精霊に動揺のようなものが見られた。


 躱すばかりでは埒が明かないと、軽く拳を当ててみる。

拳のナックルガードが弾け飛ぶと精霊に吸い込まれていく。

「あれ、今の感触」と記憶を探る。ああ、とシーラを見て合点がいった。

「リーチェ、あなたにお姉ちゃん、と呼ばれるその誇り、見せてあげる」


「月華の如く、日暈の如く、砕くは現か幻か!」

 上段に構えた右手と下段に構えた左手が孤を描き、手を追うようにエーテルが円の印に輝いた。

「夢幻裂蹴!」

 円は小さく分裂し飛び回ると次々と足先に集まっていく。

「さて。先ずは間合いを見せてもらいます」

 フロラルがゆっくりと前傾姿勢を取り「疾ッ!」と気合を発っすると三人のフロラルが現れる。


 シャイネリアはフロラルの動きを見て「まじで出来ちゃうんだ」と唸る。

「シャイネリア、フロラルの動きはなんだ?三人に見えるんだが、蜃気楼(ミラージュ)は光の固有魔法だぞ」

「あれ、幻影じゃない、全部実体よ」

「分裂? ああ! 分身か! そんな東洋の胡散臭い術なんて!」

「自分の影を踏んでいくから、影踏み(シャドウステップ)って言ってたけど、まさか実現しちゃうなんて驚きだわ」

「このアイデアはシャイニーですよ? ほんと敬服です」

「伝説の戦人、ニンジャっぽいからね。フロラルってば。冗談で言ってたのに」

 

 フロラルは影踏み(シャドウステップ)で精霊の懐に飛び込んだ。

「フロラル、そのシールドに触れるのは危険だ!」

 グラディアスの声にフロラルは微笑んで答える。

「問題ありません。シールドを剥ぎ取ってから殴るだけです」

「剥ぎ取るって」

 

 フロラルの右足の蹴りが精霊の腹部の体表を滑るように交差する。その瞬間、光の粒子が弾け飛んだ。シールドが削られた後には砂の体が露わになった。そこに左腕の肘が強打する。精霊は呻き後ずさると、様子を見るように左右に動き始めた。

「そうか、魔法無効化を直接打ち込むのか!」

「ほんと、器用だわ」

「ロータス、シーラを頼む!」

 ロータスはシーラの襟を咥えると静かに地面を引きずっていく。リーチェは視界を塞ぐために土の壁を乱立させた。

「さて、お手伝いさんっと」

 シャイネリアは胸の前で両手を柔らかく向き合わせる。

 「燦々と降り注ぐ月光のなかで、煌々と乱舞する星芒たちよ。揚々と咲き誇るバーベナの花散らし、吹き抜ける風と共に駆けよ乙女! 其れは天津風、 歌え! 高らかに角笛を鳴らせ!」

 手のひらを上に向け腕を広げる。

「誘われしは、ヴァルキュリャ。ヴァルホルの導き手なり!」

 沸き起こった積乱雲の中、雷鳴と共に突き抜けてきた一人の少女が霧散する雲の中から現れた。甲冑を身に纏い、女性と呼ぶにはまだ幼い騎士が辺りを見回すと、やれやれといった具合に肩を竦める。甲冑も二回り程、大きく動くたびにずり落ちて視界を塞ぐヘルムのバイザーを手で押し上げる。

「シャイニー……。死んでるやついないじゃない。死にそうな女の子は居るけど。この子に止めさして連れてけばいいの?」

「ちょ、やめて! ブラス=ヴォルヴァ、ディノ君のシールド見える?」

「んー」と言ってるそばからバイザーがガチャリと落ちた。

「もー、じゃまくさい!」

「着なきゃいいじゃん」

「しきたりと伝統ってのがあるの!」

「はいはい。んで?」

「あえて言うなら転移シールドね。魔力励起のオーバーロードとゲート魔法を逆位相させてできた隙間から移送空間を表に出してるのか。そんなことできるんだ。考えたなぁ」

「何言ってるのか分かんないけど」

「簡単に言えば、ゲートと爆発寸前のマナの界面領域を平面の布地にして、マント代わりにしてるようなものかな」

「ぜんぜん簡単じゃないわね」

「なるほど」

 シャイネリアは「わかるんだ!」とグラディアスに叫ぶ。

「ヴォル、時間はどれくらいだ?」

「後、七分くらい」

「ん? 何の話?」

「シャイニー」

 がちゃん。

「もうちょっと頭使おうよ」

 がちゃん。

「ああ、もうこっちがイライラしてきた!で、つまり!?」

「ゲートが切れたら、マナのメルトダウンが始まるってことかな」

「ぉふ」

 フロラルが慌てて攻撃をやめた。

「え、削っちゃうと爆発!?」

「そうみたい」

「戦士の魂が盛りだくさんだ!」

「いや、連れてくなよ?」

 グラディアスは苦笑いして、ブラス=ヴォルヴァを指さす。そして頭を掻いた。


「仕方がない、か。後の事は頼む。リーチェ」

「ヴォルちゃん、シーラとフロラルをお願い。間違ってヴァルホルに連れて行かないでね。精霊界の方よ。じゃリーチェよろしく!」

「え、何言ってるんだ?」

「僕ら双子はリタイアだ。ディノのマナを全部持っていく」

「それって、対消滅? マナ残ってなかったら死んじゃうじゃん!シーラどうすんのさ!」

「どっちにしろさ、何もしなかったら僕らのやっていた事、全部無駄になる。城の皆もいなくなる。なら一番可能性のある方法でいくしかない」

「ま、死なないけどね」

 シャイネリアは腕を組んで顎を上げた。

「時間がない。シャイニー」

「ほいな」

 双子は精霊を挟んで立った。警戒する精霊は威嚇するように兄妹を見渡す。

「待ってよ! ボクはなにも出来ないよ!」

 シーラが半身を起こして声を出す。

「大丈夫、きっと伝わるから」

 リーチェが横たわるシーラの傍に行き、膝をついて顔を覗き込んだ。

「ごめん!こんなことになるなんて!」

「ちょっと前にアイリスちゃんが羨ましかった。こうやってフロラルちゃんがアイリスちゃんに」

 シーラがリーチェの頭を抱いた。

「いいんだよ。全部いいんだよ、って。言ってたのがすごく、羨ましかった。ああ、許すとか許さないとか、そんな事、どうでもいいんだな、って。だから私も」

 リーチェを強く抱きしめる。

「いいんだよ。お友達だもん」

 リーチェは零れる涙を袖で拭う。

「分かった、もう謝らない。だから」

 リーチェは涙溢れる顔で笑う。

「ありがとう」

 シーラは頷いて微笑む。


 双子と精霊はマナの奔流に包まれていた。吹きすさぶ風のように荒れ狂い、双子と精霊を包み込む。精霊の体が徐々に縮み、やがて膝をついた。支えきれなくなった体を両腕を地面につけ、肩から崩れ落ち地面に横たわる。同時に双子も倒れ、地面に吸い込まれるように姿を消した。

 少年の姿をした精霊は息を切らし、空を見上げる。

 ブラス=ヴォルヴァはシーラを抱え、フロラルはその背に掴まる。リーチェは再び雲に隠れた翼の生えた騎士を見送ると精霊に歩み寄った。


「やあ、ディノ」

「君が、リーチェ?」

「そうだよ」

 少年の目から涙が溢れ出し、子供の様に腕で拭いながら泣いた。

「ひどいや、いっつも怒ってばっかりで」

「ごめんな」

「いっつも、だんまりで」

「ごめん」

「いっつも話しかけてたんだよ!」

「ご、めん、よ」

 リーチェは少年の頭を撫でた。その額に涙が落ちていく。手から精霊の記憶が流れ込んできた。その記憶を胸の中に刻んで微笑む。

「これからは、一緒だ」

「ほんとに?」

「ああ、ボクにはいい友達がいる。もちろん君の友達にもなれる、いいやつらばっかりだ」

「友達かあ。どんな感じだろう」

「それは二人で覚えていこう」

「そっか。そうだね」

「君はディノじゃないね?」

「そうだよ。それは前の僕」

「名前を付けてあげよう」

「うれしいな。初めて名前を呼んでもらえるんだ。なんて呼んでくれる?」

「そうだね。君の名前は」

 リーチェは少年の手を引いて起こした。


「アルビオン。君の名だ、アル君」





「余震、来るぞ! アイリス、思いっきりいけ! ユニ、パニックになる人を落ち着かせろ!構わん、こんな時こそお前が必要だ!」

 カナンは時間を許す限り壁を再生していく。次元の振動が響き渡ってから干渉波の中心点の方を向くと「間に合うか!?」とマナの放射を更に強くした。


 地鳴りが響き渡ると平原の向こうから黒い影が沸き起こった。その影が急速に城へと迫っていく。

 泣き叫ぶ子供の側でしゃがむとユニは微笑んで「大丈夫だよ」と頭を撫でる。

「怖くない?」

「ちっとも。今、女王様がね。あれをやっつけてくれるんだよ」

「ほんと?」

「強いから大丈夫、お母さんは?」

「いない」

 難民の子か、と少し悲しそうに抱き上げた。

「じゃあお姉ちゃんが一緒にいるね」

 少女は震えながらユニに抱きついた。

「リリ」

「お名前かな。お姉ちゃんはユニ」

 少女を抱きしめ、迫る黒雲を見る。


「魔法がなくても、この子は泣き止んだのです。だから魔法使いのお姉様たちなら、簡単ですね」


 少女がユニを見上げる。

「魔法使い?」

 ユニはにっこりと微笑んで頷いた。

「最強の魔法少女たちです」

「あたしもなれる?」

「もちろん」

 ユニは少女を連れて城内へと向かった。

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