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金の双樹  作者: 宮﨑 夕弦
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第五十一話「目を奪うな!」


 

 狭間は一定の形を持たず影響力の高い物、もしくは者の深層心理を映し出す。ディノゲノスの心理がもたらす景観は砂丘だった。精霊の周りを砂が渦巻き、或いは力を失ったかのように地表へと還る。それを繰り返しながら精霊を守護していた。


 渦巻く砂の中心に、フードを被った少年が見えた。

 膝で顔を隠し、耳を手で覆っている。

 悲壮な顔で「ディノ」とリーチェは呼ぶ。


「グラッド、どう攻める?」

「僕とシャイニーは奴の気を引く。シーラは次元断層(シェル)で重力を断ち切りながらリーチェと接近。話では重力攻撃は自分にも効果が及ぶから懐に飛び込めば離れているより安全かも知れない。前と後ろで二面攻撃といこう」

 リーチェが難しい顔をしてグラッドの肩を掴んだ。

「あまり、虐めないでくれると嬉しい、いや、我儘な話だし、無茶なお願いだし、分かっているんだけど、ボクの大切な、ごめん」

 グラッドはリーチェの頭に手を置いた。

「僕を誰だと思ってるんだい? 稀代の精霊使い(エレメンタラー)様だ。ぬかりはないよ」

「おお、アニキって呼んでいいっすか!」

「え。あ、う、うん。なんかごめん、ピュアな反応だと困ってしまう」

「じゃあボクら裏に回ってくる!」

 シーラの手を引いて飛ぶように去っていくリーチェを見てシャイネリアは「ぬう」と唸った。

「また無理臭いお願い聞いちゃって、大丈夫なの?」

「ここは無理を押し通すさ。将来、彼女らを敵にしたくないからなあ」

「うは、打算ってわけね。確かにそうだけども」

「さて、手初めにあの厄介な砂のシールド飛ばしてくれないか」

「風で飛ぶかなあ」

 肩に乗るエーンヴァルーが笑う。

「宙に舞ってるくらいだから、重力操作はそんなに重くないはずよ」

「そういう事だ」

「なんか私が馬鹿みたいで釈然としないけど」

 シャイネリアは砂の領域の間際まで行くと詠唱を始めた。それに合わせて砂が高さを増し精霊を覆いつくす。


 「黒き影よ、音を超える者よ。その脚で雲を裂き、月を蹴り、星を砕け! その名はファントマイズ!」

 以前より短縮し最適化された呪文は本人すら驚く勢いで、以前の突風から暴風に変化していた。砂のシールドが削られていくが、地面から舞い上がる砂が空いた隙間を埋めていく。

「相殺されるけど!」

「いや、いいんだ。後で説明する」

 グラディアスは蜃気楼(ミラージュ)で幻影を飛ばし自身は精霊の斜め前に移動した。すかさず幻影はグラヴィティ・バインドを唱えられたが、もちろん効果はなかった。


「これで彼も動けない。次の手はおそらく憤怒の罰(スタンピード)だ。シャイニー! 詰めろ! 次は砂を固めてくるぞ!」


 リーチェはグラディアスの動きを見て苦み走った笑顔で「ボクの癖を見た事もないのに」と冷や汗をかいた。魔法の知識をどれだけその頭に詰め込んだんだ、と感嘆するしかなかった。

 グラディアスの読みどおりに砂のシールドからブロック状に変えて高速回転をさせる。自身の周りに浮遊させていたが、シャイネリアに向かって一つが撃ち出された。それをすんでのところでかわす。

「あぶな」と言い終わる前に避けたはずのブロックが、背後の地面に触れた瞬間に破裂した。背に大量の質量を受け、そのまま砂に埋もれる。

「シャイニー!」

 シーラの叫びが響き渡った。

 埋もれた地点が渦を巻き始め、砂塵が吹き出す。中心がぼこんとへこむと、地中から竜巻が起こった。

「もうやだ。肌が砂まみれよ!」と竜巻の中で砂埃を払う。それに向けてブロック攻撃が向けられるが竜巻に阻まれた。形は竜巻だが回転のスピードは自然現象のものとは比べられないほどの高速度回転は、砂混じりも相まって最早、やすりと同等だった。

「精霊固有魔法か。ヴァルが側にいると威力が桁違いだな」

 グラディアスは急に耳鳴りを感じ、すかさず体を投げ出した。振り返ると立っていた場所が陥没する。辺りに穴が増殖していった。

「うん、これはもう覚えた。さて、目を貰うよ」

 蜃気楼(ミラージュ)を消し詠唱を始める。


「寒さは肌を裂き、息すら凍てつく世界で、私は精霊に出会った。まことに美しきその目を見ていると、心なしか体も温まるかのようだった。それは気の所為だったと気づいたときはもう、私の足は凍りついていたのだ」


 精霊の目は白銀の世界に覆われ視界を失う。蜃気楼(ミラージュ)の応用で、その呪文は相手の網膜に直接、幻を投影した。

「目を奪うな!」とリーチェが叫ぶ。


 ディノゲノスが吠える。


「我、遥かなりイシュタルより血を呼ぼう。

 

      汝、悪戯に逆鱗に触れるなかれ


  我、暴虐のオーグメントなり」


 少年のような声が響くと砂塵が集まり高さ三メートルほどの巨人へと変貌した。

「最大強化魔法だ、逃げろ!」

 リーチェは先に行くシーラの後ろ襟を掴み、動きを止める。

 砂のゴーレムの体表の空間は歪んでいた。体は宙に浮き、足の裏に吸い寄せられるように砂や石が飲み込まれていく。

 グラディアスは距離があるのに体の違和感を感じ、信じたくない事象を口にする。

「あれはブラック・ホールか!!」

「なにそれ!」とリーチェが叫ぶがグラディアスは返答どころじゃなかった。


 反重力を利用した跳躍は凄まじく速く、屈んだグラディアスの頭を右腕が掠める。それだけで身体が宙に浮かび、自由を奪われたところを逆の手が掴み掛かる。それを予期していたシャイネリアの風がグラディアスの体を攫っていった。

「シャイニー、助かった!」

「やっかいね、こいつ!」

 グラディアスは精霊を観察する。

 まず小規模のブラックホールが存在し形状を自在に変える。あり得ない。

 どうやって自身を守っている? 内側に反重力か? それも物理的にあり得ない。

 つまり何処かのブラックホールに繋げている。地点と地点を繋げる。点と点、面と面。

 グラディアスはある魔法に気付き「あるじゃないか、そんな魔法」と笑みを浮かべる。だが分かったところで攻撃の手段が浮かばない。物理攻撃は吸い込まれる、光すら吸い込むから電撃も届かない。

 そう、光も目に届かない。視界もゼロのはず。どうやって敵を感知する?

「電磁波か」

「なにそれ!」

 リーチェの再びの問いにグラディアスは苦笑しながら視線は精霊から逸らさずリーチェに向かって叫ぶ。

「リーチェ! あの形態のとき周りはどう見えてる?」

「なんかぼやっと!」

「了解、把握した。対処方法は分かった」

 精霊が再び、憤怒の罰(スタンピード)を始めた。だが流石に慣れ始めタイムラグを利用して双子は苦もなく避け始める。

「なんかショックだ」

「リーチェ、あの二人に常識、通用しないの」

「対精霊戦のスキルがハンパない、君のダーリンは格好良いな」

「うん!」といった後で「いやダーリンって、言っていいのか、わかんない、し」とまごまごと呟く。

「ちぇ、嫌味にも聞こえないか」

「それよりどうしよう、近づけないね」

「ボクに考えがある。周りに次元断層(シェル)を張り巡らせてくれない?」

「わかった」

 シーラの作業が終わるとリーチェは精霊召喚の歌を歌う。一匹のアナグマが姿を現し「ごはん中だったのに!」と召喚主に腹を立てる。

「うはは、それは悪かった。でもちょっと急ぎなんだ。銅と亜鉛の合金が欲しい。そう真鍮だ。二人が隠れる位の大きさで板状のもの。盾っぽいやつ? でいいかな」

「自分で作りなよ。ってあれ? なんでディノ暴れてるのさ。三百年くらい見なかったからてっきり寝てるのかと」

「そうなんだ。ボクの起こし方が悪かったから機嫌悪いんだよ」

「もう! 貸しだよ? って、なんなのこの子おお、抱きつくななああ」

 シーラは土の精霊に頬を擦り寄せ抱きついていた。

「つい」

「あああ、でもきもちいいい」とシーラにモフられ恍惚の表情を浮かべる土精霊(ノーム)は、抗いがたい温もりからなんとか抜け出す。

「ぬう、お主覚えておれ。この仕打ち、必ずや仕返しに戻って参るぞ。リーチェ、ゲート経由での移動だから少し時間をもらう」

「おっけー」

 ノームは地面を掘り起こし穴を掘って姿を消した。

「ああ、機嫌を損ねちゃったあ」

「いいや。訳すとまた来るから撫でてね、だ」とリーチェは笑う。

「盾って何に使うの?」

「盾と言うかディノから見えなくなる透明マントだよ」

「私の次元断層(シェル)じゃだめ?」

「それ魔力の発生源が見えちゃうんだよ。それにそれだと彼に触れられないから。待ってる間、ダーリンたちの援護をしよう。シーラ、組成変換できる?」

「ごめん、まだ無理なの。回復とお水出すくらいと、えと、動物使いくらい」

「動物使い? ビーストマスターか。まぁ次元断層(シェル)が無敵すぎる位だから。ん?水か。そういえばヒナっちは?」

「ここ」

 といってシーラは襟口を引っ張って胸元を見せる。小さくなったヒナが胸の谷間に埋もれてるのを見てリーチェはけらけらと笑う。

「窒息するなよ、ヒナっち。頼みがあんの。大量の水を空間にばらまいてくれないか。こっからディノの付近まで。大きさは任せるけど人の形に似せて欲しい」

「あー、そうゆうこと。いいよー」

「ありがたい!」


 ヒナは胸の拘束からよじ登って抜け出すと小さな両手を突き出す。


「創る、たくさん、人、水!」

 精霊呪文の速さにリーチェは舌を巻く。「ディノも外で動きたかったのかな」と目を細めて暴れる精霊を見た。

 ヒナの詠唱は大量の水人形を宙に作り出す。支えのない人形が崩れ形を失う寸前に、リーチェの呪文が表れ苔が生まれた。急速に成長した苔は人の形となり、それは微量に帯電していた。ディノゲノスは大量に表れた人型の影に注意を惹かれ魔法攻撃を繰り出す。

「シーラ! 人形に次元断層(シェル)! うし、これで少しは囮になるかな!」

「あれはカナンさんの魔法、ね?」

「そう、師匠から初めて教わった魔法さ」

「師匠? そっか、お弟子さんになったんだ」

「いや、仕方がなく! どうしてもって言うから! その、お願いされて」

「カナンさん、いつも寂しそうだから。ありがとう、リーチェ」

 シーラは微笑んでリーチェに抱きつく。

「君はすぐ抱きつくね」

「ハグは世界を救うのです」

「よし、片付いたらグラッドにハグしよう!」

「だめ」

「えー、けちんぼ」

「先にディノちゃん、だよ?」

「うん、そだね。グラッドはその後だ」

「だめ」

「たはー、結局駄目か!」

 リーチェは精霊を見る。「待ってろディノ」と呟くがその精霊の姿を見失う。慌てて上空を見る、がやはり見えなかった。

 上じゃなければ!

「グラッド! 砂に擬態だ!!」

 リーチェの叫びに足元を見る。

 グラディアスの足元が急激に盛り上がり、グラディアスの足を掴もうと砂中から出たゴーレムの巨大な手が開かれた。





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