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金の双樹  作者: 宮﨑 夕弦
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第四十九話「最強の精霊使い、二人を守れよ」

 アズライア兵は武器を捨て、軽くなるならと防具も捨てた。百年城へと向う兵士達はシーラとすれ違いざま「陛下!」「我が女王(マイレディ)」と声を掛けていく。

 シーラは困惑気味に頭を下げる。グラディアスはそんなシーラの頭をぽんぽんと撫でた。

「さ、これからだよ。まずはディノゲノスを何とかしよう。まだ受肉をしてないからこちら側でそれを待つわけにはいかない。狭間に行くしかないんだが、儀式陣を作れば戦うマナもなくなる」

 思案していると二か月しか離れていなかったのに懐かしく感じる声が聞こえてきた。

「それはアイリス、フロラル、ユニでなんとかなる。私は壁の修復を急ぐ。罠を全部解除し、回収したマナで少なくとも絶対領域が発動できるくらいまでは何とかなるだろう」

「カナンさん、ご無事でしたか」

「そこの筋肉と一緒にするな、とはいえこの子がいなければ危うかったな」とリーチェの頭を撫でる。

「あと叔父上が駐留部隊と一緒にバシュタットを止めている。火蜥蜴(サラマンダー)に対応中だったが、あらかた吹き飛ばして残党を橋まで追い詰めていた所だ」


 リーチェがシーラに近づいた。慌ててシーラが立ち上がると、リーチェは微笑んでシーラの胸をもみ始める。初めは何事が起きたのかと反応できなかったが次第に顔を赤らめ口をぱくぱくさせて硬直した。

「シーラ、怒っていいと思うよ」

「馬鹿姉さま! なにやってるですか! 恥ずかしい!」

「いや、さ。この胸がボクの姉妹たちを篭絡させたかと思うと」

「違います」とフロラル。

「大体合ってる」とアイリス。

 リーチェは抱きつくと「ありがとう」と礼を言った。

「わ、私、何もしてないよ? お友達、になっただけ」

 アイリスに似た少女は人差し指でシーラの胸をとんとんと叩く。

「見たらわかるよ、ここを守ってくれた。ボクには出来なかった事をありがとう」

「ううん」とシーラは微笑んだ。

「リーチェちゃん、だよね?」

「同い年だから気ぃ使いっこなしだ、心の友よ」

「心の? 分かんないけど、分かった、リーチェ」

「でもあれはボク一人で行く。全部ボクのせいだから」

「だめ」

「じゃあ行っ、ええ……。なんでさ」

「みんなで行く」

「危ないんだよ?」

「だから一人じゃ、だめ。絶対に」

「フロラルぅ、この子何なのぉ? がんこだぁ」

「リーチェ、諦めて。言い出したら決定事項だから」

「権力振りかざすなあ、プンスカプンスカ!」

「だって、みんなでやれば、大丈夫。それに、アイリスちゃん、あなたに話したい事、一杯ある。フロラルちゃんもあるの。後で聞いてあげて? 私もあなたの事一杯聞いた。だからもう、あなたの事でも一生懸命になれる」

「ぶー、ぶー!」

 そう言って溜息をつき、リーチェは未来の女王に近づくと「ありがとう、甘えるよ」と言って照れた。

 アイリスと、フロラル、ユニはお互いの顔を見合わせた。

「リーチェ姉様が有難うって言葉を知っていたとは驚きです」

「ユニ、今晩はお赤飯にしましょう」

 アイリスはハンカチで涙を拭っている。

「おまえらあああ!」

 グラディアスは既視感を覚え「わかる、わかるよ」と言ってリーチェに頷いて見せた。

「君がシーラの旦那さんか」

「あ、いや、まだ違うけど」

「ふーん、まだ、ね。その気はあるんだ。くそう、ロータスの使い手に嫁入りの計画が!」

「あーそんなこと言ってました」

 ユニは三白眼で姉を睨む。

「なんで僕がロータスと契約ってわかった?」

蜃気楼(ミラージュ)かな。精霊固有魔法っしょ」

「なるほど。君は敏いな」

「グラッド、シーラがあんたを取られないかヒヤヒヤしてる」

「ちが……」

「あはは、否定できないんだ、愛い奴めぇ」とシーラに頬を擦り合わせ「取らないよ」と言って笑う。

「そんなんじゃ」とシーラは口を尖らせた。


「あ。あああ、うわああああ!」

 グラディアスは慌てて呪文を唱えた。

「ん?ディスペル(魔力消滅)? 蜃気楼(ミラージュ)に? あ。ああ、うわああああ!」

 シャイネリアも慌ててヴィー達を呼び戻す。

 双子は並んでシーラに頭を下げた。

「ごめん! シーラ!」と双子は同時に謝った。理由が分からないシーラは小首を傾げる。ふと周りを見ると逃避中の兵士が、まるで微笑ましい子供を見る目で通り過ぎていく。

「ぁ。ぅわぁぁぁぁ」と控えめに叫ぶと土下座して頭を抱えこんだ。

「死にたい」

「くっ! シーラの最大防御形態、死にたい土下座シーラだ」

「丸聞こえだったとか。私でも死ねるわ」

「即位宣言から婚約発表とか新しい」

 フロラルは感心して頷く。

「ち、違うの! 色々違うの!」とシーラは土下座したまま、ごもごもと叫んだ。


 ズールはそんな様子を腕を組んで見ていた。横にカナンが並ぶと謝罪する。

「お騒がせな連中です」

「以前お会いしたかな、御婦人」

 今は女性としての出で立ちでシエントではないことを失念していた事に気付き苦笑した。

「そうですね。シエントとしてお会いしてました。亡き兄の代理として」

 ズールは目を開きカナンを見る。

「面倒なお話で申し訳ない。こんな機会は訪れないでしょうからお話します。シエントは、そう、ファラスによって毒殺されました。訳あって私がシエントを名乗り謀っていました。ただ私怨が為に。私はファラスを許すことはできません。ご親友であられる公はお怒りになるでしょうか」

 ズールは目の前の光景を見る。

「騎士の時代は終わったのだな。今、ようやくヴァイケルめの言葉を理解した。あやつは見届けたいと言った。自分が残す足跡を、な。ファラスは騎士の時代にしがみつき離れられずにいる、ちょっと前の儂だ。その話が本当なら正当な裁きを受けなければならない。儂が怒ることでも裁く事でもない。ただ、そうだな。残念で寂しいことだ。どうせ儂は百年城を落とせなかった責を取らねばならぬ、家督を息子に譲るつもりだ」

「そんな! ファラスはアズライア公に全てを明かしてなかったのでは? これもファラスの奸計でしょうに!」

「それを分かって来たんだ。フィールス邸の襲撃後から儂は内心気付いておったんだろう。自分が時代の遺物になりつつあることをにな」

 ズールの肩にずしりと重い手が掛かった。

「儂に馴れ馴れしくできるのは一人しかおらんな、アグロット」と振り返って手を取り合った。

「よう悪童、愁傷じゃないか、いやわかるぞ。俺も最初は面食らったさ。だが泣き言はまだ早い。あの餓鬼どもが歩きやすいように我らが盾にならねばならぬ。今日もどっから聞きつけたか分からんがバシュタットも来やがった。ならば星刻連合や南国の海洋国家連合も押し寄せるぞ。若き女王なら与し易い、とな。今度は恐らく世界が相手だ。引退? 馬鹿いえ、これからが本番だ。いい年だが血が滾る、なぁ?」

 旧友の言葉に我に返る。地面で頭を抱えるシーラを見て噴き出し、大声で笑い始めた。

「そうだな、悪くない、ああ、悪くない」

 ズールは愛用のハルバートを拾い上げ、肩に担いだ。

「おい、馬を貸せ。年寄りには城まで遠い」

「くそ爺が」

「お互い様だ」

 二人は肩を組み叩き合う。アグロットは顎でシーラへと注意を促した。

「あれは間違いなくベリアッド様のお子だ」

「違っても構わんさ。儂の兵を一瞬で、もぎ取ったんだ、六万だぞ!?おそらくネフィルの奴なんぞ丸裸だろうな。傑物だわい。お、忘れておった。先に行っておれ、うまい酒はあるんだろうな?」

「安酒でも酔えるくせに」

「違いない」

 二人は笑い合うと拳を打ち合わせ暫しの別れの挨拶をした。距離を置いて見ていたそんな二人をカナンはうらやましいと思った。二十年の隠匿生活は一体何だったのだろうかとさえ思う。少し俯き寂しげにしているとズールが肩に手をかけた。

「シエントは好かんかった。何故かって? あいつはいつも妹の自慢ばかりしておってな。儂の息子どもを婿にどうかと言うと、まだ早いと言って断りおった生意気な若造だった。……残念なことだ。だが確かに自慢するだけの事はあるわい。おかげで名前まで覚えさせられてたぞ、リデア・アークト」

 そう言って老将は旧友の後を追った。

 人目につかぬよう背を向け、カナンは立ち尽くし両手で顔を覆った。兄上、と呟き、声が出ぬように必死に耐え忍ぶ。


 耐え忍んだ二十年、無駄なものか。

 無駄にするのは現在の私だ。過去の私でも未来の私でもない。

 そう心が決まると黒い繭を睨み、涙を振り払う。


「さあ、アイリス、フロラル、ユニ、準備は出来たな、陣を急げよ。リンケット、ヴァイケルを頼む。双子はもっとマナを貯めておけ! シーラ、リーチェ、鎧袖一触の鉾と言ってもよい貴様らが肝だ」

 シーラとリーチェが並んで立ち、頷く。

「そして、グラディアス、シーラ」

 双子も腕を組んで並んで立った。

「最強の精霊使い(エレメンタラー)、二人を守れよ」

 兄は頷き、妹は顎をついと上げた。

「さあ、かかれ!」


 次代の精霊使い(エレメンタラー)魔導士(ウイッチ)、エーテル使いは一同に頷く。


「はい!」



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