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金の双樹  作者: 宮﨑 夕弦
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第三十三話「あなたが望む世界」


「フロラル、あなたは特殊な形で魔法が使えると思うの」

「私にも?」


 フロラルは数日前の夕食時を思い出す。シャイネリアには感謝も言葉もいくら積み上げても足りない。


「私たち魔法使い、精霊使い、まぁ大きく分けて二種類は分かる?」

「概念は。感覚だったら想像もできない……一度も経験ないから」

 シャイネリアは微笑して頷く。

「魔法使い、魔導士、も微妙に違うけど取り敢えずこの二つに絞るね。魔法使いは、精霊を介して魔法を行使する。精霊使いは精霊語で精霊そのものを呼び出して力を借りる。もちろんその差は歴然としたものがある。魔法は基本、術師(キャスター)のマナを使うのね。精霊使い(エレメンタラー)は精霊と術者の精霊感応で威力が変わる。ここまではいいかな?」

「大丈夫、だと思う」

「この精霊感応は祈り手と受け手、この場合、受け手は精霊ね。この二つの、恥ずかしいから言いにくいんだけど気持ちの繋がりが大事なの。だから相性が重要視される。あなただって見知らぬ人物の頼み事より、シーラの頼みごとの方が頑張れない?」

 フロラルの返事を心配そうに待つシーラの頬を撫でる。

「命だっていらない」

 シーラは「もう」といって頬を膨らませる。

「ま、そうゆう事なのよ。細かい事を言うと、精霊感応時に起きる魔力励起をコントロールするマナを運用するための蓄積魔力(キャパシタ)が威力を左右する。ここが気持ち(容量)の部分なの。なわけだけど、ぶっちゃけると精霊と仲良くってマナが多い方が強いわけ」

「なんとなく分かるけど、私が魔法使える理由にどう繋がるの?」

「こっから本題。昨晩言ったようにフロラルは人間と精霊のハーフなわけ。物質世界(マテリアル)寄りのね。そもそもエーテルは物質世界(マテリアル)に存在する人間にしか持てないから。故に、エーテルそのものが本人なわけなのよ。グラッドが言ったように会話はできない。けど?」

「けど?」

「独り言を言えばいいんじゃないかな」

「あー? あー! あー、そんな単純?」

「いやフロラルが単純にできてるから」

 フロラルが唇を尖らせてシャイネリアをぽかぽか殴り始めるとシーラとアイリスはウムウムと頷く。

「うはは、ごめんごめん、でも言葉通りなの」

「ほむほむ?」

「さっきの説明を思い出して?精霊感応、魔力励起、蓄積魔力(キャパシタ)、フロラルは自分の体の中で完結してるのよ。精霊を呼ぶ必要もない、エーテルとマナの混合魔力(ハイブリッド)、莫大なマナの量。精霊との親和性?本人だからそんなの関係ない。ダイレクトに還元されるエネルギーよ。恐らく鍛えると神格クラスに匹敵するわ。グラッドと同じ言葉になるけど役立たずなんかじゃない、三流レベルの魔法使いのファラスが哀れでしょうがないわ。あなたが本当に敵になったら今の私たちじゃ勝てなかった。それは本気でそう思ってるの。あー話が逸れた」

「ありがとう、シャイニー。少し自信が持てた」

「馬鹿ね、自信どころか自慢していいわ。あーここが重要、魔法は詠唱が精霊へのガイドになる、いい?」

「ええ」

「あなたはキーになる言葉と体の中の反応を紐づけるの」

「だって、魔法の反応なんて知らないよ?」

「ふっふーん」

 シャイネリアは自分の胸を叩く。

「この間、縮地教えてもらった時に思いついたんだけど、あれでいける」

「あーあれか」

「そしてもうフロラルは既にそれをやってる」

「え?」

 シャイネリアが立ち上がり片腕を上げて「疾っ!」と言いながら腕を振り下げた。

「それでいいの?」

「でも教えたくない!あなたが最強になっちゃう!」

 フロラルが口を押えて笑う。

「あはは、あなたが悔しがることなんてあるのね」

「昔は自分がそうでないといけないと思ってた。グラッドと二人でシーラ守んなきゃ、ってね」

 シーラはシャイネリアに抱きつく。もう、有難うも、御免なさいもいらない友人を抱きしめる。

「甲板に出て。あなたが使えそうな魔法を教える」

 フロラルは頷いてシャイネリアについて行く。自分の手を見て握りしめた。


 いつも自分の事だけだった。姉妹の為と思い込んでいたことが裏を返すと寂しさに怯えていただけと知った時には自分を責めたてた。フロラルは歩きながら横に歩くシーラの腕を取り肩に頭を乗せた。


「おー、貴重な甘えんぼフロラルちゃん頂きました」

「師匠、んとヴァイケルさんの言葉を思い出しました。世界は突然に変わるんじゃない、変わった後に気づくんだ、って。こんな世界なら、あなたと一緒に歩きたい」

「あふ。ちょっと照れます」

 アイリスも反対の右腕を取り「わたしも。出来るならシーラちゃんと結婚したい」

「アイリス、あなたは言葉と表情を同期させな、てるか」

「まあ、結婚は無理かも。でもアイリスちゃんの子供見てみたいなぁ。綺麗だろうなぁ」

「!!作りましょう!!」

「どうやって作るの! くっぷ。えっと、暴走しすぎですよアイリス」

「ホムンクルスしかないかな」とアイリスがぶつぶつと言い始めたが「本気で怒るわよ」のフロラルの言葉で我に返る。

「なんか久々のフロラルちゃんのつっこみだ」

 フロラルもくすくすと笑い頷いた。

「ああ。そうか、これが」

「うん?」

 アイリスも微笑む。

「あなたが望む世界」と二人は同じ言葉を同時に発する。


 シャイネリアは甲板の中央で掌を上に向けて、くいくいとフロラルを招く。

「この間の仕返しよ。体に魔法を叩きこんであげるわ」

 フロラルは微笑を浮かべる。

「お手抜かりなく、お師様?」

「ん、悪くないわね。まずは風魔法から。エンヴァルーの槍、いくわよ。腕を出しなさい」




「匂いたちぬるは桜花(さくらばな)、吹きすさぶは春風!」

 スチュロは眉をひそめ苛立つ。

「なんだ詠唱か?お前、魔法使えねぇだろうが!」


桜花幻掌!(偽・エンヴァルーの槍)

 両手を重ねた掌から加熱されたエーテルが漏れ出し桜色した光の粒子が舞い落ちる。空間の歪みが見えるほど圧縮された気体が恐るべき運動エネルギーで放出された。


 スチュロの油断は無理もなかった。フロラルが格下で、しかも普段は泣き叫ぶ顔を見るため、いたぶりながら愉悦に浸る為の玩具のように扱ってきた。しかも魔法なんて使えるわけがない。精霊と会話できないフロラルは魔法どころか精霊を見ることすら怪しい程度の能力で自分に歯向かえるわけがないと。


 直撃は辛うじて避けたが、スチュロの頬の肉が削られ上下の顎と歯が露出し、思い出したかのように血が噴出る。喚き声と悲鳴混じりの声を発しながら地面に突っ伏した。

「へめえ、くほが!」

 空いた頬から空気が漏れ言葉にならない。魔法の詠唱を絶たれ戦いにならない状態だが目は死んでおらず、立ち上がりながらフロラルを睨む。


「おほれ、おほれ、ふひのへいれいよ」


 スチュロは詠唱をやめ、狂喜じみた目の光が段々と失われていく。頬を抑えながら後退りするが命乞いをしないのはプライドのせいだろう。

 スチュロの口から唾液が溢れ、膝をついた。地面に吐瀉物を吐き出すが胃液から次第に水へと変化していく。肉体が水分を失いつつある自分の体を見て「りへいん、てへぇ!」と叫ぶと喉を掻きむしりながら倒れた。

 フロラルは事態の異様さに咄嗟に後方に跳び、リレインの姿を探した。


「まさかスチュロを瞬殺なんて。お父様がお喜びになるわ。帰ってらっしゃい。双子の首が手土産ならお父様もお赦し頂けるから。その双子もあなたを置いて先に進んだわ。薄情だと思わない?」

 フロラルはほっとした。ちゃんと警告を聞き入れてくれた。それだけで満足。

 伏せた目を開き微笑む。

「信頼される嬉しさなんて知らないんでしょうね?」

「ふふ。強がってもだめ。あちこちから出血してるわよ」

 フロラルは先程から視界が赤く染まる理由を探すよりもこの現象を起こし得る精霊を探していた。

 視界の端にアイリスの姿を見つけた。同じように目と耳から出血が見られる。袖口で口元の血を拭うと口を抑え首を絞める仕草をした。

「ああ、そういう事。アイリスの雷が使えない理由も、貴方がこの場から離れた事も理解した。私に効果が若干軽いことも」

「へえ、何かしら」


「大気の組成を換えたのね。まさか貴女に十二大精霊、空の精霊クランヴィアが傍にいたなんて」



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