表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金の双樹  作者: 宮﨑 夕弦
27/57

第二十七話「グラヴィティ・コード」


「これで魔法を思う存分使える事となったので、僕たちだけで島に向かいたいと思います」


 後方で起きていた戦闘の報告や目の前で起きた、戦闘とは言えない出来事がなければ、魔法という言葉にアグロットは激怒しただろう。

 この子は頭がいい、大人顔負けの駆け引きもする。だがまだ子供なのだ。安心とか危険とかはさておき、ヴァイケルの「危うい」という言葉が文字通りだと実感した。まるで殺しを覚えていない若い騎士のような危うさに思える。

 

 しかも目の前の少年は、そして恐らく妹の方も戦いを知っている。この若さで場数を踏んでいるのは戦の前の落ち着き様から伺い知れる。魔法の力に慢心とは言わないが近いものがあるのではないかと思ってしまう。


 アグロットが返答に窮しているとグラディアスが、恐らく、と切り出した。

「今日のこの動きを見るに敵はこちらを重視していません。主力は百年城が目標でしょう。フロラルの話にも確認出来ましたが謀反を理由にファラスが動かしたようです。アグロットさんはきっとそこで必要とされるはずです。下手をすれば騒乱に乗じてバシュタットも出てくるかもしれません」


 アグロットは勧められた椅子に座り、グラディアスもテーブルを挟んで座る。


「今日の戦いはまずは戦力、というか僕らの能力を見るための威力偵察でしょうね。少なすぎると魔法を使わない、多すぎると逃げに入る。不甲斐ないことにそこはまんまと乗せられました。恥ずかしい程あからさまな挑発に。アグロットさんの忠告をちゃんと聞いて入れば……やりようがあったのに」


 グラディアスの顔を見て、ほう、と感心した。

 こいつは化ける。騎士であれば己が育てるのに、と残念でならなかった。餓鬼と侮るなと言われたが実際に目の当たりにするとヴァイケルの言葉が大袈裟でないことが分かる。

 


「何れはやるつもりだったが気配は漏らさなかったはずだがな。何処で感づかれたのやら」

「言いにくいですが僕らのせいです。謀反はとってつけた理由ですよ。気づいていません。でないと両家合わせても百年城は落ちないのはファラスは知っていますので」

「坊主、はやめだ、グラッド、お前は何を、いや何処迄知ってる?」

「そんなには。その辺はシャイニーの方が把握していると思います」

 シャイネリアは腕を組んで天幕の柱に寄りかかっていたが兄の背に立ち、椅子の背もたれに座る。

「私達一家だけじゃ生活どころか逃亡すらままならないもの。ファラスは私達の後ろ盾となるカナン姉様を先に消すつもり。これの理由を説明出来ないので御本人に聞いて下さい」

「カナンってだれだ?」

「あ。えーーっと。アークト伯です。あーまずったわ」

「もう何聞いても驚かんわ。今まで生きてきて驚いた数を今日一日で超えてしまっとる。つまりはだ、シエントも魔法使いだな?」

「あの、わ、私達は何も言ってませんから!」

「おまえら、儂をただのおっさんだと思っとるな」

 シャイネリアは冷や汗垂らしながら首を振ると、シーラも真似をして首を振った。

「なぜ妹のあいつが兄の影武者をやっていたのか、やっと合点がいったわ」

 双子は顔を見合わせた。お互い知らなかったとばかりに首を振る。アグロットの話は初耳だった。

「お兄様、ですか?というか気づいてたんですか?」

「仮にも儂が二人を育てたんだぞ。気づかないでか。シエントの振りをするリデアが、妹が亡くなりましたと言ったときは兄を失って心が壊れたと思ってな。理解出来るまで話を合わせていたが、まあそのうち回復するだろうと思っていた。そうか、だからか」

「何か事情が?」

 シャイネリアは初老の苦み走った表情では読み取りようもなく、カナンの心内を聞いていいものだろうか考える。

「さっきの言葉を返そう、本人に聞くんだな。まあ理由は分かった。儂は帰る。あれでも娘みたいなものだからな。リデアも人間相手じゃ魔法も使いにくいだろう」

 シャイネリアは兄を見て答えを待った。グラディアスは暫し考えて頷く。

「さっき兄が言った、能力を見る為の戦力と言いましたよね」

「……そういうことか。リデア、いやシエントはどれ程強い?」

「僕の四。五倍、それ以上かもです。籠城戦なら十万居ても勝てるかどうか。僕なら完全封鎖で一年以上囲みますね。兵糧攻めしか思いつかない。遺体の山が壁を超えてからそこを攻めるなんてのも考えましたが、あの壁にも用意があるようです」

「なら心配要らんのではないか?」

「それは、魔法使いがこなければ、の話になります。向こうが魔法戦を考慮するなら五万は超えるかもしれません。もっともリンダス、アズライア両家に秘密を明かしたとは考えられませんが」

 アグロットは頭を抱えた。

「その心配か。お前らは世界を魔法込みの戦争にするつもりか?」

「もちろん、否、です。魔法を軸に考えると争いは魔法と魔法になり、魔法対軍隊の直接的な戦闘は考えにくいのです」

「つまりは一対一(さし)での勝負になるというのか」

「僕にも経験があるわけではないので断定はできません。でも、そこに人が入り込んだとして、ただ消耗するだけの戦いは戦後処理を考えると不毛なのですよ」

 人を消耗品と捉えるのは間違ってはいない。戦とは感情論が入り込む余地のない、一種の経済活動だとアグロットは考えている。だからこそお互い妥協点を見出そうと探り合う。相手を完膚なきまで叩きのめしたところで還ってくるものがなければ消耗した分、損害を被るだけなのだと。


 アグロットは髭をなでながらシーラを見た。この娘がどう考えているのかを知りたくなり嫌味にならない程度に意見を求めた。


「殿下、と呼ぶのはよそう。シーラ、お主はどう考えておる?」

「わ、私ですか。難しい事、よくわかんないです。戦争はもちろん反対です。フロラルちゃんや、グラッドが人の命を奪ったことは、ちょっと動揺しています。でもそうしないと私たち、多分死んでたんです。なのに守るために仕方がない、とは、やはり思えないです。でも死にたく、ないです。なんかわかんないです」

 上手く話せない自分にもどかしく思い、赤毛をいじりながらアグロットの視線を避ける。それを察してアグロットは微笑む。

「お前さんの言葉でいい。選ばなくてもまとめなくてもいい。頭に浮かんだ言葉だけを出していきなさい」


 シーラは小さく二度頷いた。

「あの人たちも死にたくない、と思ってるんです。話し合えば分かる、なんて事は私も信じていません。昔、お隣さんのファズラさんとは仲が悪く、お話することもない関係でしたが、収穫と種まきはお手伝いしてくれました。何も言わずにただ手伝ってくれる人でした。今思えば、もっと話しておけば良かった、って思います。仲が悪い、って私だけが思ってたのかも。ファズラさんは喋るのが苦手な人だったのかも。もっと笑って話しかければ良かったのかも。ごめんなさい、綺麗ごとって自分でも分かってます。でも、分かってくれなくても、話しかけること、しなくなっちゃったら、誰も笑うことも、その機会もなくなっちゃう、って思います」


 アグロットはただ黙って聞いていたが、今の言葉はシーラの本音だろうと感じる。甘い言葉は年齢に相応のものだ。シエントが、彼女は面白いことを言う。しかもそれを叶えたくなるほどに、と嬉しそうに語っていた。絆されているのか夢に酔っているのか分からないが荒唐無稽だと思う。

 そう思うが……。


 もし実行できる力(・・・・・・)があるとしたらどうなる?


 この双子、そしてメイドたち。ヴァイケル。我が姪、リデアたちの魔法の力。そして大きくなる力は魔法だけとは限らない。

 他の貴族もヴァイケルの声に耳を傾け始めている。


 ふとグラディアスに思い当った事を聞いた。

「グラッド、だからお前は戦闘前に奴らと交渉しようとしたのか?」

「だって損はないでしょう。話し合いで済むのなら。コストパフォーマンスは高いですし。まぁ結果はあれですが……」

「手の内を見せてしまったのはどう考える?」

「このままだと城のお二人に負担がかかり過ぎると思ったんです。あわよくば敵の魔法使いを引っ張り出そうかと。敵の魔道士の情報が全然ないんですよ」


 するとフロラルが遠慮がちに手を挙げた。

「どのタイミングでお話すればよいか分からず、黙っていましたが、数名なら分かります」

 グラディアスは背後にいるフロラルに振り返った。

「それを聞かせてくれるのかい?それを言えば本当に帰れなくなるんだよ?」

「何を今更、です。どっちにしろどこにも家族は居ませんし」

「ごめん、確かにそう。だけども」

 フロラルは顎に人差し指を当て「家族、じゃないけど」と言ってアイリスの顔を見た。

「姉妹は居ます。全員で七名。うち二人はここに居ます。あと五名の姉妹、フロゼッタ、ユニ、スチュロ、リレイン、そして」

 アイリスが頷いて口を開くが、引き返せなくなる言葉を少し躊躇う。

「私の実の妹、リーチェ・レイライン、十二柱に名を連ねる地の精霊ディノゲノスの契約者」


 アイリスの言葉をフロラルが繋ぐ。


「私たちは彼女を、重力を律する者(グラヴィティ・コード)と呼びます」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ